2021年、ディディは新しい恋人ジェーン(仮名)と付き合い始め、2024年9月に逮捕されるまでの3年間、キャシーに行わせたのと同様のフリークオフを繰り返していた。ジェーンもプライバシーを守るために仮名で出廷し、6日間にわたって涙ながらの証言を行った。

加害者と被害者の間に形成される「トラウマの絆」

 裁判ではディディから被害を受けた女性たちの他に、男性エスコート、ディディのアシスタント、ホテルのマネージャーや警備員、連邦捜査官など計34人が証言台に立った。その中の1人は臨床および法医学における心理学者であるドーン・ヒューズ博士だった。

 ヒューズ博士は未成年への性的暴行などで30年の刑となったR&Bシンガー、R・ケリーの裁判や、DV嫌疑で法廷闘争となった俳優のジョニー・デップ/アンバー・ハード元夫妻の民事訴訟でも証言を行なっている。博士はディディ、キャシーとの面談はしておらず、2人の関係性について一般論を解説した。

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 博士は、加害者が支配力を持ち、被害者が経済的に加害者に依存しているケースでは被害者が虐待的な関係を続けるのはよくあることだと語った。

2016年3月7日にロサンゼルスのアークライト・シアターで行われた映画『パーフェクト・マッチ』のプレミア上映に出席したディディとキャシー ©AFP=時事

被害者の精神力は暴力を避けることに費やされてしまう

 博士は加害者と被害者の間に形成される「トラウマの絆」についても解説した。こうした関係性には愛情、相手の魅力に惹かれること、それらと同時に芽生える絆もあり、被害者は抜け出すのが困難になる。また、被害者の精神力は虐待から抜け出す方法を考えるのではなく、暴力を避けることに費やされてしまうこともつけ加えた。

裁判の証拠として米地方検事局が公開した、2016年にディディがキャシーを暴行する様子が映ったホテルの監視カメラ映像(「extraTV」YouTubeより)

 被害者は「丸くなる」など加害者を刺激しない受動的な自己防衛手段を取ることが多いとも述べた。R&Bシンガーのドーン・リチャード、キャシーの友人だったケリー・モーガンは共に、ディディによる暴行の最中にキャシーが胎児のような姿勢をとるのを見たと証言している。

 被害者は羞恥心や屈辱感を抱えており、助けを求めるのが困難なことも博士は指摘した。キャシーは当初、母親にディディからの身体暴力については訴えたものの、フリークオフについては口をつぐんでいたと語っている。 

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