実はわたしも、ずいぶんと前から顎関節症に苦しめられている。始まりは20代半ばにさしかかったある日、顎がカチカチと鳴り始め、ストレスが溜まると口がうまく開かなくなった。症状が一番ひどかったのは2020年3月。修士論文の初稿を書き、壮絶な喧嘩の末に恋人と別れ、インタビューをしていた女性のひとりが自殺したときだ。どうも寝ているあいだに一晩中歯をぎゅっと食いしばっていたようで、朝起きると顎がズキズキした。放っておけば、そのうち奥歯がみんなひび割れるか砕けるかしてしまいそうだった。

 口を開けて朝ごはんを食べることもろくにできず、頭痛もひどかった。歯医者に行っても気を楽にしなさいとか、ストレスを溜めないようにしなさいとか(そんなことがどうやったらできるのだろう?)と言われるだけで、原因はわからないままだった。悩んだ末に歯科学、中でも女性の健康に詳しい後輩に電話をかけた。

 ソウル大学歯科医院所属専攻医のキム・イェジ先生はわたしの話を聞くと、口の中に指が縦に2本入るかと尋ねた。入らないと答えると、それは大変だと口腔内科に行くことを勧められた。一般の歯医者では診断できないだろうと言う。そこで近所の口腔内科を訪ねると、チェックリストのようなものを受付で渡された。診察に必要だということだが、読んでみるとまるで精神科に来たかのような錯覚を覚えた。

ADVERTISEMENT

 

 口腔内科は一般の歯医者よりは専門的だったが、だからといってはっきりとした解決方法がわかるわけでもなかった。医者はわたしの口がどれくらい開くか定規で測りながら、ストレスや不安の程度などあれこれと尋ね、薬と抗不安薬を処方した。電気治療と温熱療法を受けて診察は終わった。顎関節症の症状は今でもあり、あまりにも辛いときは自分で顎のあたりを温めていでいる。

 キム・イェジ先生によれば、顎関節症は医療関係者のあいだでも「命にはかかわらないがやっかいなだけで答えのない病気」と言われているらしい。この病気が歯医者にとっても難解な理由はいくつかある。まず第一に、原因が多様すぎること。第二に、歯科学は本来外科に属し、顎関節症のような内科的な問題に対する理解度が不十分なため、正確な原因を探すことが難しいことだ。

 親知らずを抜くときや虫歯治療のように、手術を通して病巣を取り除いたり身体の部位を再建したりする治療を外科的と言い、物理的に体を切る手術をせず、かぜをひいたときのように薬の処方や注射によって行う治療を内科的と言う。顎関節症の場合、手術で病巣を取り除くことは難しいので、原因をつきとめて症状を軽減する治療をしなければならないが、その原因を見つけることが困難なのだ。