「正しい診断を受けられない」女性たち
診断が遅れたのはイチゴだけではなかった。線維筋痛症患者が症状を自覚してから診断が確定するまでには平均2、3年かかり、そのあいだに平均3.7名の医者にかかる。そして、患者の84%が女性。
多発性硬化症、過敏性腸症候群、関節症なども女性患者が多く、正しい診断がなされるまで時間がかかる病気だ。皮肉なことに、これらの身体症状に対する正しい診断を受けられないせいで、女性患者がうつ病を患うという指摘もある。実際に線維筋痛症の治療には鎮痛剤とともに抗うつ剤が使用される。
これらの病気が女性に多い理由や、病気の原因はよくわかっていない。つまり患者は線維筋痛症や多発性硬化症のようなそれらしい診断を受けたあとも、その原因を特定することができないのである。そのため完治は当然難しくなる。実はこうした困難は、女性に多く見られる大半の病気に当てはまる。
うつ病もまた、女性の有病率が男性より1.5~2倍高い。日本の医療人類学者である北中淳子は著書『日本の鬱―沈む社会と精神医学』(Depression in Japan: Psychiatric Cures for a Society in Distress)(Princeton University Press, 2011)において、女性うつ病患者が症状を訴える際、精神科の診察室で起こりやすい現象を指摘した。まず、女性患者の苦しみが医学的診断の対象になるような大したものではなく、ただの思い込みであると判断される場合。そして、自律神経失調症と診断される場合。しかし自律神経失調症という診断は、原因を特定することのできない症状をどうにか説明するためにうやむやに下されたものにすぎない、と北中は付け加える。
顎関節症も、ほとんどの患者は女性
イチゴは、ひどい体の痛みのせいで外に出かけては地を這うようにして家に帰り、歯を磨くときも口が開かなかったと言った。先に述べた顎関節症の代表的な症状だ。側頭下顎部障害とも呼ばれるこの顎関節症には他にも症状がある。頭痛や咀嚼筋痛、口を開けたり動かしたりするたびに顎がカチカチ鳴る、などである。
