韓国の主要な医学部で使われている精神医学の教科書のほとんどが、その原因をエストロゲンに求めている。女性は男性とは違ってホルモンの分泌量変化に伴う月経周期を持っているため、気分の変化も激しいというのだ。ホルモンを根拠に、女性のうつ病はライフステージ別に細分化されてもいる。月経前症候群、産後うつ病、更年期うつなど、女性が人生においてうつを経験するタイミングは多すぎるほどだ。
精神医学の教科書ではこうした症状はすべて別々の「疾患」と名付けられる。ある教科書は更年期うつの患者を「病前(発病前)から思いつめやすくまじめで、融通がきかず、責任感が強く、せっかちで神経質な性格」と表現した。
中年女性はうつ病のために多く病院を訪ねる層の一つである。家庭内暴力やケア労働、低賃金労働に苦しむ中年の女性を想像してみよう。かのじょが病院で憂うつ感を訴えても、医者から返ってくる答えは「エストロゲン分泌量の急速な変化によって閉経期を迎えているせいだ」というのが十中八九だろう。「薬を処方するので朝夕飲んで、大豆やザクロのようなエストロゲンが多いものを食べてください。日光を浴びるようにして体も定期的に動かしてくださいね」。次の診察までに憂うつ感が消えなかったら? それは医者の指示をきちんと守れなかった患者の責任、だ。
女性のうつ、その原因をエストロゲンに限ってしまうと、うつ病を患っている女性が置かれた具体的な社会・文化的背景が見えなくなってしまう。女性はただ単に感情をコントロールできない弱い存在とされ、医学的説明の範疇にない自身の苦しみの背景を見つめる機会を奪われる。しかし、果たして背景のない苦しみなどあるのだろうか?
男性のうつは社会のせい、女性のうつは体のせい
精神医学の教科書では、男性のうつは女性のうつとは異なり、性ホルモンよりも社会文化的な要因によって説明されている。女性だけではなく男性にもやはり性ホルモンがあり、また特定のライフステージを経験するにもかかわらず、テストステロンは男性の精神疾患を診断する際の重要な基準とはされていない。これは、男性の身体が医学の基準とされているためだ。
男性の身体が基準となるとき、具合の悪さ、病気のメカニズム、非正常な状態は、男性の身体の内部の問題から発生するのではなく、外部からもたらされるものとされる。そのためうつも、男性の「正常」な身体が原因なのではなく、かれらを苦しめる外的要因、つまり社会文化的条件が原因とされるのである。逆に女性のうつを語る際には、女性の「非正常」な身体の中に原因があるとみなされる。つまり女性の具合の悪さは「元々そういうふうに生まれたから」と片付けられるのだ。