「原因は女性ホルモン」、「メンタルの弱い敏感な人」、「大げさに言っているだけではないか?」……。うつ病を患う若い女性は、このような偏見から自由でいられない。
ここでは、韓国のノンフィクション作家で、躁うつ病の当事者でもあるハ・ミナが、うつ病を患う20、30代の女性たちにインタビューした『このクソみたいな社会で“イカれる”賢い女たち』(明石書店)より一部を抜粋して紹介。
著者の友人である「イチゴ」の経験に端を発する、女性患者たちを取り巻く厳しい状況についての問題提起を紹介する。(全3回の1回目/続きを読む)
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原因不明の疼痛で大学に通えなくなった
イチゴとは文筆サークルで出会った。やせ細った静かな人だった。その文章は美しくて鋭く、誰にも似ていなかった。わたしが知らなかった新しい視点で世界を見る方法を教えてくれた。わたしはイチゴとそこまで親しいわけではなかったし、そうなる機会もなかった。そんなイチゴに強烈な親近感を持ったのは、かのじょにうつ病を患う兄がいると知ってからだった。同志愛を感じた。
イチゴの病気は、かのじょの人間関係を変えた。病気をきっかけに、以前は親しかったのに疎遠になる人もいたし、疎遠だったが親しくなる人もいた。わたしは後者であった。イチゴとは苦しみについて、他の人よりも少し楽に話すことができた。他の人と話すときはもっと慎重になった。
イチゴは向学心の強い人で、とてもまじめに文筆活動をしてきた。その活動が止まったのは2014年、大学2年生だったイチゴを、突然原因不明の疼痛が襲ったときからだった。痛みは脊髄から始まり、後頭部をすぎて顔にまで広がった。頭と肩に釘が打ち込まれたようだった。疲労が噴出し、机の前で座っていることはとてもできなかった。
イチゴは大学を休学したが疼痛は続き、7年後の2021年8月現在まで復学することができていない。たぶんもう大学には通うことができないだろうとかのじょは言った。すでに支払った学費は返金されず、最近は大学の外で行われるオンライン講義を聞いて過ごしている。
原因不明の疼痛に襲われたあと、イチゴは病名を知るために整形外科、神経外科、総合診療科、漢方医、リウマチ内科を転々とした。診断と処方も転々とした。「ストレートネックだ」「運動療法では治らないので医者が直接注射を打たなければならない」「身体年齢が70歳だ」「肉をたくさん食べなければならない」……。
色々な病院を訪ね歩くこと1年6ヶ月、イチゴはやっとのことでそれらしい病名にたどりついた。線維筋痛症。特別な原因もなく体のあちこちで痛みが続くこの病気は、奇妙なことに男性に比べ女性の発病率が8~9倍高い。