うつ病を患って人生のドン底にいるような時、果たして「愛」は救いになるのだろうか?
ここでは、韓国のノンフィクション作家で、躁うつ病の当事者でもあるハ・ミナが、うつ病を患う20、30代の女性たちにインタビューした『このクソみたいな社会で“イカれる”賢い女たち』(明石書店)より一部を抜粋して紹介する。
スジョンが「頼れる相手」だと思って結婚した夫は、生活費を月に50万ウォン(編注:7月11日時点で約53000円)しか渡してくれず、酷い仕打ちを繰り返した。ある時は、包丁を手にとって脅すことまであったという――。(全3回の3回目/最初から読む)
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「いつも子どもを人質にとられるんです」
2021年1月に会ったとき、スジョンは7年間の結婚生活を終えて離婚訴訟の最中だった。わたしたちは1週間に1回、子どもが父親に会いにいく時間を狙って会っていた。
スジョンは以前にも離婚を申請したことがあった。通常子どもがいる場合、協議離婚を進める際に離婚について再考できるように3ヶ月の熟慮期間を与えられる。そのあいだ夫はスジョンに子どもを会わせなかった。3ヶ月で15キロも痩せた。子どもに会わずに生きていく自信が到底湧かなかった。母親がいない環境に子どもを置くことは、スジョンの傷に触れることでもあった。わたしが本当は何を望んでいるのか。自問自答を繰り返すうちに、子どもを置いて出ていくことはできないという結論に至り、降参して家に戻った。
「いつも子どもを人質にとられるんです。家に帰ってきてからは以前よりも暴力がひどくなりました。確信したんでしょう。わたしは子どものためなら土下座だってできるんだって。喧嘩すると夫は子どもを自分の実家に連れて行っちゃうんです。連れて帰りたいなら義父母と顔を合わせてみろってことなんでしょう。財産に対しても前より巧妙になって、私に隠れて横取りしようと企んでたみたいです」
スジョンは結婚するとき、慎重になれなかったと思うと言った。家庭を平穏な空間だと感じることができずずっと外をうろついていた。17歳のとき出会ったカレシと7年付き合い、2番目に出会ったカレシとも5年付き合った。夫とは9ヶ月付き合って結婚した。大人っぽいと思った。会社を経営していると言っていたし、安定して稼ぐ姿を見て頼りたくなった。夫が保護者になってくれることを期待したし、頼りたかった。しかしいざ結婚してみると、保護者はむしろスジョンになった。