「わたしは若いじゃないですか。今まで自分で生計を立ててきたし、生活費50万ウォンで子どもも育ててきました。それなのにひとりではやりきれない気がするんです。この裁判にも負けそうな気がしてくるし。裁判の過程で(相手が)何か送ってくるたびに、なぜかわたしにとって致命的な気がして。わたしも人間だから、短所だってあるじゃないですか。でも完璧じゃなかったらあの人に勝てないんじゃないかってすごく思っちゃうんです。そう考えるとやっぱり、あの人のガスライティングに支配されたんですよね」

シェルターで辛い経験を話せる仲間に出会う

 スジョンは長いあいだ夫から逃げ出すことはできないと思っていた。警察も助けてくれないし、周囲に支えてくれる人もいなかった。自分ではどうにもできないと思ったとき、1336(女性緊急ホットライン)に電話をかけた。まずは近所の家庭内暴力相談所に繋げてもらって訪問相談をし、そこを通して韓国女性ホットラインが運営する家庭内暴力シェルターの存在を知った。シェルターに入ることができると聞いたとき、「空から光が降ってくるみたいだった」。

「出ていくまでが怖いんです。初めて子どもを連れてのとある宿に一泊しました。その日、本当にたくさん泣きました。子どもが眠ってしまうと、窓からネオンの光が差し込んでくるんですけど、うずくまってずっと泣いてました。初めての経験だったから。色々な感情が湧き上がってきて涙と一緒に流れていきました。わたしにとって最善の選択だとはいえ、自分の家庭を自分の手で解体するって本当に悲しいことじゃないですか。愛していたし、愛されたかったことも皆覚えてるから……。

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 家庭内暴力シェルターに行くと集団カウンセリングもあるし、個人カウンセリングもたくさんしてくれます。でも就寝時間が決められてるんですね。当時こっそり部屋を出てリビングでオンニ[朝鮮語で実の姉や近しい年上の女性を指す呼称で、フェミニズム運動においては女性の先輩や仲間に対する連帯の思いが込められている]たちとずっと雑談してました。

 そのときに自分の辛い経験について話すんですけど、話すことでそのときにはもうユーモアに昇華されていくんです。お互い『ねえ、実はわたしたちの夫ってみんな同じ人なんじゃない?』なんて言いながら。共通点が多すぎて。そうして本当にどん底にいたときの話をすることがすごく治癒につながります。たくさん共感してくれるし。同じ経験をした方々が集まってるのがすごくよかったです」