スジョンは精神科での治療よりも、非暴力コミュニケーションを学ぶことがより助けになったと言った。非暴力コミュニケーションはアメリカのマーシャル・ローゼンバーグ(Marshall Rosenburg)博士によって開発され、「観察・感情・ニーズ・リクエスト」の四段階を持つコミュニケーション方法だ。相手の言動を観察し、それが自分自身にどのような影響を与えたのかその感情を確認したあと、その感情のうしろにあるニーズをもとに相手に自身のニーズをリクエストするという方式だ。

 非暴力コミュニケーションはスジョンが自身のニーズや感情を自覚して丁寧に扱い、自らを憐れみ悼むことができるようにしてくれた。味方になってくれるのも、泥沼のような苦しみから救ってくれるのもただひとり、自分自身だけだった。

「本当は愛されたかったんだ」

 現在は通信制大学で心理学を勉強している。家庭内暴力から脱出し、シェルターを経て自立するまでの過程をブログに連載している。もっと多くの女性たちが自身の経験に触れ、シェルターという空間の存在や、家庭内暴力から脱出できるということを知ってほしいと思っているからだ。ここにひとりのサバイバーが存在し、ちゃんと生きているんだということを、スジョンは自ら世界に知らせていた。

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「勉強しながら9歳のときのことを思い出したんですけど、かまどの前でひとりで座って死にたいと考えてたことがあったんです。でも結局その気持ち……本当は愛されたかったんだってことがわかりました。ちゃんとした大人がそばにいたらよかったのにって思うと残念です。今はわたしがそういう大人になりたいし、結局それがわたしにとっての治癒なんだと思います。

 ブログにコメントを残してくれる方々は自立できるかすごく不安がります。あまりにも長いあいだ職歴にブランクがあると、子どもと一緒に出ていくのがすごく怖いんですね。夫から被害を受けながらもそのお金で生活してきたから、その束縛から抜け出せないんです。

 コールセンターで働くのはすごいことではないです。非正規ですし、ちょっと恥ずかしくもあったんです。それでもブログには正直に書きました。こうして書き続けるのは、家があるわけでも専門職の女性でもないけど、どうにかして自分で自分の責任をとって生きていく方法があるってことを伝えたかったからなんです。絶対に抜け出してほしいです」

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