結婚の前に妊娠した。結婚しようとしたら、夫は自分の事業に使うお金はすべて使い切ってしまって実家を出ることができないので、自分の両親と同居しようと言った。スジョンが自分の貯金で独立して賃貸で暮らそうと言っても同意しなかった。それなら別れようと言うと、しがみついて泣かれた。「俺が死ねばいいのか? 死んでやる」。そのときも自殺すると脅されたが、深刻な問題だとはわからなかった。
「妊娠8ヶ月のとき、夫が風俗に行ってきたのを見つけたんです。当然喧嘩するでしょ。そしたら義父母が首を突っ込んできたんです。男なんだからそういうとこに行ってもいいじゃないかって。あんたは育ちが悪い、家族っていうのがどういうものか知らずに育ったからそんなことを言うんだ、そんなふうに非難されました。ものすごく傷つきました」
なんとか別居するようになったあとも、義父母が孫に会いたがるという理由で一週間に3、4回は義実家に行かなければならなかった。そこでは義父が王だった。義父は夫に非難を浴びせ、夫は兄と比較されながら肩身の狭い思いをして生きていた。当初は夫に対して一抹の同情心が生まれた。ところが時間が経つにつれ、夫もやはりその家族と一緒にスジョンを非難するようになった。
「当初は夫もうまくやっていきたいと思ってたかもですね。どうだったにしろ、結局男女の愛は長くは続かない。あいつ、いつも家出して実家に行くんです。実家で嘘も言うんですよ。自分の立場を守りたくてそうしたんでしょうね。料理も洗濯もしてあげないってわたしが言ったとか。ほんと笑えますよね。あいつ……喧嘩して飯は食わないって言ったのはあいつのほうです。はははは、こんな話するとわたしのほうが恥ずかしくなる……わたしのご飯食べてあげるのがよっぽど特別なことなんだとでも思ってたんでしょうね」
スジョンが洗濯をしなければ、その洗濯物を自分の母親のところに持っていった。母親がおかずをつくってくれると、それを持ち帰ってきてひとりで食べた。離婚訴訟中にやりとりした陳述書にはこう書かれていた。「家事労働を行わなかったため、月50万ウォンのみ与えている」スジョンは家庭内暴力シェルターで出会ったサバイバー女性たちの証言について話しながら、加害者には共通点があると言った。人のせいにすること、非難すること、嘘をつくこと、そしてすべてを金に換算すること。セウォル号が沈没した日、夫はニュースを見ながら言った。「こいつら結構な額もらえるんだろうな」