女性が直面する病気の原因はなぜいつも女性の身体、中でも性ホルモンなどの生殖器と関連づけて語られるのだろうか。男性を基準とする医学知識を形成してきた人びとが、女性と男性の違いを分析するとき、それぞれを取り巻く社会・文化・経済的な条件を視野に入れず、ただ生殖器の違いのみに注目していたからではないだろうか。男性知識人は女性のアイデンティティを構成する最も重要な要素を生殖器であると思っているのだ。
女性に多い病気の原因が性ホルモンであるという固定観念は、うつを扱った医療ニュースで際限なく再生産されている。「夫婦喧嘩をしたら必ず生理が来る?」という記事のように、女性のうつは生理や出産のような生殖能力と関係するという言説がよく見られる。しかし男性のうつは「職場でのストレスが以前より深刻になったせい」であり「女性の地位が高くなるにつれて相対的に男性の地位が脅かされているため」と言うのだ。
中年女性のうつの原因が閉経なら、中年男性のうつは「『威厳のある父』であることを暗黙のうちに強要する」社会で「ありのままの自分を表現することに慣れていない」男性たちが「背負わされた重圧に押しつぶされ」ることが原因。このような記事は数えきれないほどたくさんある。
どちらがより苦しいのか比べようとしているわけではない。もちろん男性も憂うつだろう。うつ病の診断自体が女性の症状を基準としているので、男性うつ病患者は発見されにくく女性のうつ病患者は可視化されやすい。命にかかわる事態になる前に男性うつ病患者を見つけ出し、治療を受けるようサポートすることは重要だ。
しかし、一度立ち止まって考えてみなければならないのは、なぜ女性の病気は男性の病気より生物学的要因が強調されるのだろうか? ということだ。女性が男性と異なるのは生殖器だけではない。女性は男性よりも貧しく、不安定な労働環境に押しやられている。出産やワンオペ育児をしているうちに社会から孤立し、職場復帰できないケースも珍しくない。若く美しくなければならないというプレッシャーを男性よりもずっと強く受ける。性暴力や家庭内暴力の危険にも常に晒されている。
特定の歴史や文化、社会の中で女性たちが具体的にどのような人生を送ってきたのかについて知らないまま、単純に女性ホルモンだけを原因とするのならば、女性のうつ病、さらには女性患者が多い病気について理解を深めることは決してできないだろう。