つけっぱなしにしたテレビを、ぼんやり眺めていることがある。大抵は夕食の後かな。地上波に興味を惹かれる番組がないと、NHK BSの『英雄たちの選択』を観ることが多い。
珈琲を淹れて、期待もせずに画面を観ると“ラストサムライ 謎多き新選組隊士 斎藤一”とあって、思わず画面に集中する。
新選組といえば、土方歳三、沖田総司、そして近藤勇がMVPトリオだ。司馬遼太郎の『燃えよ剣』『新選組血風録』により、彼らの人気は不動となった。
原作も名作だが、ドラマの魅力はまた格別だった。とりわけ栗塚旭の土方歳三と、島田順司が演じた沖田総司は文句なし、歴代ナンバーワンと思う新選組ファンは少なくない。
「総司、妙な咳をするが大丈夫か?」「嫌だなあ、土方さん、私は元気ですよ」
この台詞のやり取りに痺れた。総司は重い結核を患っている。それを隠して陽気に振る舞う天才剣士の姿が切ない。
脇を固めた隊士のキャストも味があった。槍の名人の原田左之助を演じた西田良。剣の達人、永倉新八は黒部進。そして斎藤一役は玉生司郎だ。司馬は斎藤をこう書く。「剣は沖田総司ほどの天才性はないが、真剣に度胸がある」
強いし、性格に裏表がない。しかし地味な斎藤に焦点を当てるとは、この番組も侮れない。戊辰戦争で近藤勇は処刑され、多くの隊士も斃れた。土方も果敢に闘ったが、幕臣の榎本武揚らと北に転じ、北海道に共和国を樹立し薩長と闘う。
斎藤一は会津に向かい、新政府軍と死闘を繰り広げた。会津藩主の松平容保は京都守護職で、新選組を重用した恩人である。一介の浪士だった自分らを武士に取り立ててくれた容保に報いるため、斎藤は敗色濃厚な会津若松で闘った。
この選択をどう評価するかがテーマだ。土方や榎本らと北に行くか、会津での籠城戦を選ぶか。
ゲストは小説家の木内昇さん、哲学者の萱野稔人氏など。結果は司会の磯田道史氏を含め、全員が斎藤の会津での戦いを支持した。
木内説は、やはり会津への「義」である。剣に生きた斎藤なら、容保と会津の人に殉ずるのが道理。『漂砂のうたう』の作者らしい視点だ。インテリを嫌う点では土方と斎藤は重なる。
「刀」に生き、そして北辺で斃れた土方。しかし斎藤は維新後も生き、警察官となり、西南戦争では憎き西郷軍と闘っている。
賊軍から明治政府軍の警察官に。転向かと思う向きもあろうが、「刀」ひと筋に生きた斎藤には迷いのない選択だったのだろう。八十年前の“敗戦”時に、なぜ日本人は米軍に抗うことなく敗れたのか。心の底にその疑問があるから私(たち)は新選組に惹かれるのではないか。
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『英雄たちの選択』
NHK BSプレミアム4K 木 20:00~/NHK BS 月 21:00~
https://www.nhk.jp/p/heroes/ts/2QVXZQV7NM/



