向かったのは中国江蘇省…

 そうして向かった先は中国の江蘇省。ちょうど、北京と上海の間ぐらいの地域だ。田園地帯を車で抜けた先に、セミ養殖の林があった。日没後に訪問して見学していると、薄暗い林でセミの収穫が行われんとしているのがわかった。例の公園のセミ採取記事では「深夜に大量捕獲」という話があったが、本場のセミ採集人の夜は早い。

 セミ養殖林。中央にはセミが卵を産み付けた枝が吊られている(写真:筆者提供)

 セミ養殖林の作り方はこうだ。まず柳の木を植えて林を作り、セミの卵が産み付けられた枝を木々の間に設置する。セミの卵が孵化すると、幼虫が地面に落ちて潜っていき、柳の根っこについて、成長する。そして2~3年後に収穫できるというものだ(ちなみに昔は「セミは7年土の中で暮らし~」という話だったが、種類によって過ごす期間は異なり、3~5年程度である)。

 自分も作業に参加したい! 養殖農家の方と挨拶を交わすと、水の入ったバケツを渡される。いちご狩りのような流れで、セミを収穫していくようだ。

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 時間は夜の7時頃。周囲が暗くなるにつれて、セミの幼虫が羽化するポイントを決めようと、柳の幹を次々と登っていく。ところが、幹にはビニールテープが巻かれている。ツルツル滑って、一定以上の高さに登れないようにするしかけだ。

テープが貼られた柳の幹。幼虫はテープより上に登れない。養殖されているのは、スジアカクマゼミだった(写真:筆者提供)

 そしてビニールテープのポイントで留まっている幼虫をどんどん回収していく。あまりゆっくり回収すると羽化して“ソフトシェル”ゼミになってしまうので、急ぎ林を巡って回収する必要があった。

集めたセミの幼虫。水に漬けておくと羽化せずに少し保存できる(写真:筆者提供)

 後々聞いた話だが、幼虫のセミは1匹1元(20円くらい)の買い取り価格。しかし羽化すると、3割~5割引きの値段での買い取りになってしまうとのこと。農家の女性は、去る我々への挨拶もそこそこにセミをかき集めに林の中に戻っていった。