味方戦艦がこちらに突っ込んできた
艦長はじめ幹部を失った「最上」の艦内では、生き残った士官だけで、「これからどうやって戦うか」。その緊急の話し合いが行われた。この輪のなかに少尉の加藤もいた。艦橋も後部甲板も吹き飛ばされ、激しい損傷を受けた「最上」は一時、航行不能の状態に陥っていたが、「何とか人力操舵に切り替え、態勢を立て直し、退避を始めました。だが、そのときでした……」
応戦するために後から駆け付けてきた重巡洋艦「那智」が、「最上」に向かって突っ込んでくる姿が見えた。大混戦のなかで、味方の指揮も混乱していた。「最上」から緊急の退避信号を発信したが、「那智」はそれに気づく様子もなく、「最上」左舷へと向かってどんどん近づいて来る。
「もう間に合わない。衝撃に備えよっ!」
加藤たちは大声で周囲の乗組員に向かって呼びかけ、軍艦同士の衝突の衝撃に備えた。スピードを落とす様子のない「那智」の姿は見る見る間に近づき、目の前に迫ってきていた。そして衝突。
「激しく船体が震えました。私たちは足を踏ん張って何とかこれに耐えました」
真っ暗闇の洋上で、いつ終わるかも想像できない、劣勢のなかでの夜戦が果てしなく続いた。
「周囲から噴き上がる炎に、たちこめる煙、耳を切り裂くような轟音……。この戦いはいったい、いつ終わるのだろうか……」
意識がもうろうとする加藤だったが、夜が明けてくると、濛々とたちこめていた煙も消え去り、徐々に視界が広がり始めてきた。しかし、視界が鮮明になるに従い、加藤は戦慄する。



