宮部 先ほども少し話しましたが、物語の素材となる史料やその解釈は、最先端の研究と照らし合わせると、今は古くなっている部分もあります。ですが、それでも面白い。それは「史観」というものが清張さんの歴史時代小説にはあまりごつごつと反映されていないからなのでは、と思います。だからこそ、歴史上の出来事がどのようにして起こり、結末を迎えたか、誰が読んでも分かりやすい物語として書かれています。
北村 つまり、清張先生の歴史時代小説は古びない。
宮部 そうですね。史実を重視した史伝も、「甲府在番」のような伝奇ものも、もちろん捕物帳も、今読んでも古さがまったくありません。逆に言えば、清張さんの一定の史観がなければ成されなかったお仕事である『日本の黒い霧』や『昭和史発掘』などは、研究が進むにつれて反論が出てきますよね。こうした近現代のノンフィクションは、時代の流れには逆らえないということなのでしょう。
有栖川 冒頭で宮部さんがおっしゃった、登場人物の役職名の表記など、私は全く気にせず読んでいた部分でもありました。歴史時代ものを書くにあたっての苦労というものは、相当厄介なものであるのだなと再認識しました。ただ「楽しい」「面白い」と思いながら清張作品を読める私は、幸せですね。
宮部 実は私たち3人、初めて単行本を出した年(1989年)で言うと、同期なんですよね。今日はこうして、長いお付き合いの北村さんや有栖川さんと、大好きな清張作品についてお話が出来て楽しかったです。
北村 これからも長生きしなくちゃね。
