樹海で出会う怖いケモノたち
――らむさん自身が対峙して恐ろしかった動物っていますか?
らむ 僕はね、鹿が怖いです。鹿って舐めてると危ない。すっごい速度で走るんで。樹海で真隣を走られたことありますけど、ぶつかったら原チャリにはねられるくらいの威力だと思います。
廃村を取材してるときに、家の中に入ると鹿がいるときがあって、向こうもおおあわてで逃げようとするんだけど、出入り口に向かって特攻してくるんで怖いんです。
メスはそうやって逃げてくれるんだけど、オスはちょっと気が荒くて、向こうから喧嘩を売って来ることがある。当たったら向こうにもメリットがないから、最終的にはどいてくれるんだけど、立派なツノに接触しちゃったらこっちも大ケガするんで「鹿、怖いな~」と。
――イノシシは遭ったことないですか?
らむ イノシシは大学のときにでっかいのを見たけど、それくらいかな。イノシシは足をバーンっとやられると、牙が刺さったりとか、転倒したりとかするので、かなり危ないです。
でも樹海の獣はまだマシ。北海道なんかではヒグマとか出るから、それに比べれば。北海道に自生大麻を取りにいく人たちが「ヒグマがいるんだよ~」とか言っていて。僕は「そこまでして大麻やりたいか!」とか思うんだけど(笑)。
村田らむ氏が経験した人怖・獣怖
――今年の3月に出た著書『獣怖 動物たちが織成す狂氣の物語』には動物にまつわる怖いエピソードが満載ですね。
らむ 獣怖(ケモノコワ)、と言いつつまあ、内容的には人怖(ヒトコワ)シリーズなんですけどね。実は、これを出した出版社は怪談が得意であって、人怖はジャンルとして好まれていなかったんです。基本的に「怪談」といえば霊や不可解な恐怖が大前提。それが起きずに、暴力団にさらわれた話とかは「怖くても違うじゃん!」って怒られるジャンルだったんです。
でもそんな頃、Amazonで「人怖」って検索したらほとんど出てこなかったので「誰もやらないなら、人怖の本って出せば売れそうな気がする」と思って書いてみたら、ウケて。
――いつ頃ですか?
らむ 最初はコロナのちょっと前くらいだから5年くらい前かな。人怖って自分の体験談だから、実話なんだけど改めて取材とか行かずに、振り返って書いてます。今までの取材の過程で得た話だけでなく、どちらかというと自分のプライベートとか。
――プライベートの話をオープンにして問題が起きたことはないんですか? 例えば、あの動物を殺めてしまう女性の話とか……。
らむ もちろん変えてます。性別を変えてる場合もあります。本人に行きつかないように、万一行っても迷惑がかからないようには書いてます。
――「違法な蛇を飼っていた女性」の話も大丈夫?
らむ 僕が本に書いただけじゃ証明できないし、警察もそんなに仕事を増やしたくないから大丈夫です。それに、僕が知らないだけで、実は許可とっていたかもしれないしね……(取ってないけど!)。
――な、なるほど……。
らむ まあ、そんな感じでプライベートを注ぎ込んで書けたので、面白いネタは多かった。結構読まれて、重版もかかって。でも『獣怖』入れて7冊くらい出ているから、しばらく人怖シリーズはお休みかな。
――ということは、本のエピソードには、本当に創作や捏造はないってことですね。
らむ 「ちょっと(捏造を)やりましょう」って言われることもあるんだけど、僕は捏造は本当にしてないんです。苦手なんでね。
写真=細田忠/文藝春秋
【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)
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