「怖い話」を蒐集するコツは?

梨:これはお二人にお聞きしたいんですけど、「怖い話ありませんか?」って聞いて出てくる話ってあまり怖くないような気がしていて、そこで暮らしている人は怖い経験だと思っていない、いわゆる怪談として認識されていない話の方が、じつはすごく怖いんじゃないかと思うんですけど、いかがですか?

小池:たしかに、あまり怪談とは縁がなさそうな人から出てくる話の方が怖いということはありますね。私が話を聞いた人たちの中で、怪談が好きな人がどのぐらいいたかというと、じつはそんなに多くはなかったように思います。むしろそういう話があんまり好きじゃない人が、そういえば自分にもこんなことあったなみたいなことをポツンと語る話が本当に怖いということはありましたね。

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三津田:「怖い体験ありませんか?」って聞くのが、おそらく最も効果がないでしょう。むしろ「不思議な」とか「変な」とか、僕はやっぱり「変な」って言葉を使うかな。そういう言い方をした方が出てきますね。

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 僕や小池さんは、まだ「実話怪談」という言葉が定着していない頃から、そういうフィールドでやっていましたが、あの頃に小池さん、いくつか小説的な本を出されていませんでしたか?

小池:自分の体験をベースにした短編を3つ書いたんです。私はちょっと天邪鬼なところがありまして、実話怪談っていうのはこういうものだっていう前提で書いてくれと言われるのが嫌だったんです。だから、あれは実話怪談集みたいな触れ込みだったんですけど、わざと小説みたいにして書きました。なにかジャンル的に狭めようとするのが気に入らなかったんです。

三津田:そこに境目が、やっぱりありますね。いわゆる実話系の怪談が好きな人って、ごく一部を除いて、まず小説の方には来ない。本当にあったのか、どこであったのか、この二点ばかりを気にする傾向があると思います。面白そうだからと小説読みの人たちが実話系怪談を読むことはあっても、なぜか逆はほとんどないんです。

小池:梨さんくらいの世代だと、その辺りはどうなんでしょう?

:そもそも実話か創作かみたいなことは、そんなに気にしていないと思います。それこそ「フェイクドキュメンタリー」っていう言葉があるように、フェイクでもいいじゃんっていうスタンスですよね。あと、そもそも実話怪談本を読んでる私の世代の人はあまりいなかったかもしれません。

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