自分自身の体験に裏打ちされたホラー

三津田:小池さんを文献派だと言いましたけど、一方で行動派でもあるなと感じたのは、『幽霊物件案内』で20代の頃に、神奈川周辺でやたらホテルを泊まり歩いているでしょう。特に理由はないって書いてあったけど、「いや、ないわけないだろ」と思って(笑)。神奈川ってなんか理由があったんですか?

小池:湘南の藤沢とか辻堂とか鎌倉とか、あの辺の海沿いでゆっくり過ごしてそのあたりを歩き回ってみたかったんですよね。そうするとなんかあるだろうという予感のようなものがあって、あるとき鎌倉にできた新しいホテルに泊まったら、夜中に話し声が聞こえて、見たら顔が3つ並んでたという話を書いたんですけど、あれ作ってると思われてるかもしれないですけど全部本当の話なんです。

 私がもし一般的なホラーと違うところにいるとしたら、私の場合はやっぱり自分の体験から始まっているからだと思います。ホラー的な表現を作ろうとか、小説的な手法で書こうとかいうことよりも、自分自身の体験の正体を解明することの方が私にとっては大事だったんです。

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辻堂海岸から富士山を望む ©AFLO

司会:梨さんは心霊スポットを訪ねて回るようなことはされていたんですか? 

:私は福岡にある九州大学で民俗学と人類学をやっていたので、いわゆるフィールドワークの一環として地方を訪ねることはありましたけど、べつに怪談を聞きに行くという趣旨ではありませんでした。

 いわゆる民俗学のフィールドワークと言ってイメージされるような、炉端に座っているおばあちゃんにその地方の伝承を聞くみたいな感じではなく、天神とか博多にいるホームレスの方たちのエスノグラフィーとか、私の同級生なんかはヒップホッパーの人たちに話を聞くとか、地方都市における一コミュニティにアクセスするようなフィールドワークをやってました。