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最初の性の思い出が、罰の記憶と重なってしまった──「作家と90分」村山由佳(後篇)

2018/07/14

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問

◆<おいしいコーヒーのいれ方>シリーズの続編はいつでるのでしょうか。ずっと待っています。このまま打ち切りなどということはないでしょうね。全く情報が発せられないので心配です。(50代・男性ほか多数)

村山 今必死に書いています! なんとしてでも今年中に出そうと思っています。あと少しだけ待ってください。

◆私は今、友達との関係に悩んでいます。その人とは高校からの友達で、大学でも仲良くしていました。コースが違うので2年生からだんだんと一緒に受ける授業が無くなっていき、今は全く無い状況です。一緒に授業を受ける機会が無くなるにつれてLINEやメールを無視されることが増えていき、今は会っても全く声もかけられず、無視されています。自分にはそのようなことをされる心当たりが無いので、これからどのように行動していけば友達とも関係を修復出来るか、教えてください。(20代・女性)

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村山 相談者さんにとってとっても大事な相手なんでしょうね。それにもよるとは思うんですけれど、人間関係というのは全部を積み重ねて一生生きていくことはできないので、どこかで消えていく人もいますし、関係が終わる人もいます。持続していく関係のほうが、奇跡のようなことですから。相手にも選択の自由はあるので、もし相手が関係を持続しようと思わなくなったとしたら、それはしょうがないことかもしれないですね。本当にその人と関係を紡いでいきたいという積極的な思いがあるなら、「なにか怒っていることあるの?」と訊いてみるなど、行動を起こせばいいと思います。LINEとかでなく、直接会った時にね。

「命とられるわけじゃない」と「ま、いっか」

◆座右の銘はありますか?(20代・女性)

村山 「命とられるわけじゃない」(笑)。あとは「ま、いっか」のふたつくらいですね(笑)。

◆『ミルク・アンド・ハニー』で主人公はある種の幸せを得た結末だと思います。男と女は同じものを見ることができたのでしょうか。それともやはり違うものを見続けているが、それでも幸福感は得られるという事なのでしょうか。男女の違いと主人公の幸福感についてどう決着したと考えているのか、お話し頂けると嬉しいです。(40代・女性)

村山 ベン図ってあるじゃないですか、円の交わるあれ。前回は本当に交わらなかったベン図が、今回はいくらか交わったんだろうと思うんですね。男女に限らず、他人同士ではピッタリ重なることはあり得ないと思うので、ベン図の交わる部分が得られたということだけで、ハッピーエンドと言っていいんじゃないかなと思うんです。この物語では、重なった部分に精神性と肉体性のどちらもが含まれている。どちらかを諦めたわけじゃない、ということかなと思います。

◆キリン先輩との友情の縁は切れてないといいなって思うのですが、どうなんでしょうね。(40代・女性)

村山 切れてないと思いますよ。武が焼きもちやいているんじゃないでしょうか(笑)。

◆女性を描くときには、具体的なモデルがいらっしゃるのですか。自分以外の女性については、恋愛に関してはまるで想像がつきません。(50代以上・女性)

村山 うーん、あまりモデルはいないです。自分の感覚をモデルにすることはありますけれど、実在の誰かをモデルにすることはなく、むしろ理想を追うことならあります。

◆『放蕩記』はほぼ自伝ですが、それ以外でご自身に似てると思われてる登場人物がいたらお教え下さい。(40代・女性)

村山 歩太ですね(〈天使〉シリーズの主人公)。

生まれ変われるなら違う人生を生きてみたい。全然違う小説を書けると思うから

◆ 作品を書かれている際に、村山先生が意識されていることはあるのでしょうか……? もしあれば教えてください。(20代・女性)

村山 登場人物との距離感です。自分に近い分なら近い分だけ距離を取らなくちゃという意識が働きますね。

◆そろそろ不倫を非難する時代は終わり、セックスもコミュニケーションの一部として、認知されるようになるんじゃないかと思っています。夫婦だけで、経済活動、共同生活、子育て、性生活全てを担うことに疑問があります。できる人ができる時にできることをやれば、離婚しなくていいし、自由な結婚生活を送れると思っていますが、どう思われますか? 私は、複数の男性に「私」をシェアしているっていう感覚があります。そうすれば、夫婦関係で性生活を無理にしなくていいし、相手が結婚を望まない独身男性なら、その人も満たされます。物も人も、「所有」関係から「共有」関係になっていってる気がします。(40代・女性)

村山 とても合理的な考え方だと思うんですけれども、あなたはそれを自分の夫に言えますか。言えて、夫の方が納得してくださるのであれば、それはとても幸せな形だと思うんですけれども、世の中のほとんどの問題は、それを連れ合いには言えないことなので。それは自分可愛さでもあり、相手への思いやりでもあり。だからなかなか理論通りに現実は進まないですよね。そこに小説が生まれる余地があるんだなとも思っています。

◆もう一度自分に生まれたら、同じ道を歩くと思いますか?(30代・女性)

村山 もう一度自分には生まれたかないですねー(笑)。生まれ変わるなら違う人生を遊んでみたくないですか? そうしたら全然違う小説を書けるようになると思うので。

◆AV男優さんが出てくるシーンがありましたが、そのための取材をされたのでしょうか? そして誰かモデルになるような男優さんがいらっしゃったのでしょうか? 以上です。よろしくお願いします。(40代・女性)

村山 相当ビデオを観ましたよ、勉強のために(笑)。イメージを固めなくちゃいけないので。あまり男優さんがマッチョだと、奈津がそっちに走ってしまいそうだったので、ソフトな感じの方を念頭において書きました。

家を建てることと小説を書くことは似ている

◆私の友人で、恋愛小説なんてくだらないという人がいます。その人は美人でお金持ちの旦那さんもいて、絵に描いたような幸せな身の上。彼女は恋愛小説など、実生活でモテない女の慰みの書とでも言わんばかり。確かに私は、彼女に比べてモテるわけではありませんが、若い時から由佳先生の恋愛小説に救われ、勇気づけられてきた身としては何ともショックで……。先生のお考えをお伺いできればと思います。(30代・女性)

村山 現実で充足できる人に関しては、そっとしておいて差し上げたいです(笑)。余計な刺激を与えるべきじゃないと思うから。でも私が、なぜ恋愛小説とカテゴライズされるものを書くかというと、人間の針がレッドゾーンにまで振り切れるのって、恐怖か恋愛か悲しみか、その3つくらいじゃないかと思うからです。恋愛を書いていると、本当に人間の極限状況が含まれてくる。それを好んで読んでくださる方というのは、人生をよく知っている方じゃないかな、と。ひとつの現実で満足する人もいれば、いろんな想像力を養いたい人もいるわけだから。読んでくださる方は、それはありがたいです(笑)。

◆作中、奈津が「自分の中に何人もの自分がいて、それぞれを満たそうとすると一人では足りず、別々の相手が必要になってしまう」と気づく箇所が心に突き刺さりました。家族愛、恋愛、性愛、自己愛、満たされたいものは確かに別々の次元で存在していると本作を読んで感じました。どれを優先するのが幸せになれるのでしょうか。奈津にとっての武は、どの自分を最も満たしてくれる存在なのでしょうか。お答えいただけるととても嬉しいです。(20代・女性)

村山 経済でないことは確かなんですよね。なのでひとりの人物で、精神性と肉体性の充足感をおぼえられることが一番幸せなのかな。奈津にとっては、ですが。

 たいていの場合は家族愛になると性的なことがなくなってしまったり、精神性を重要視して性的なことがなくなったりということがあるんですが、そこが奇跡的に同居するといいですよね、難しいかもしれませんが、性というのは身体だけじゃなくて心の繋がりでもあるから。

◆『ダブル・ファンタジー』で村山さんを知って以来のファンです。村山さんのお住まいと作品についての質問です。鴨川の農場や現在の軽井沢の邸宅など、広く特徴のあるお住まいですが、住まいが作品に及ぼす影響はありますか? 私も50代なのですが、シンプルライフ流行の昨今、これからの村山さんの住まいの考え方が知りたいです。(50代・女性)

村山 家を建てることと小説を書くことはすごくよく似ているんですよね。外からどう見えるかとか、どこの構造を強化すべきか、とか。明るい場所に出る前に、わざと暗い通路を作る、とか。それが楽しくて、家を作り終えると引っ越したくなるという、普請貧乏だったんですよ。でも今の家はもともと写真スタジオで、宿舎も兼ねていたので広すぎて。まだまだ直すところがあるので、サグラダ・ファミリアを設計したガウディみたいな感じです(笑)。まだしばらくは遊べますが、自分でもちょっと過剰だとは思いますね、家に関しては。断捨離とかは絶対に無理です。