情報源はとにかく短いテキスト動画
安田 次の転機は、近年のネトウヨコンテンツの商業化でしょう。いまや、一昔前の在特会みたいなデモや演説の動画をアップロードする手法は主流ではありません。ネットで拾った記事をまるごとコピペして字幕が流れるだけのテキスト動画とか、『保守速報』みたいにネット右翼だけを対象にしてアフィリエイト収入を稼ぐまとめサイトみたいな、知的にさらに劣化したコンテンツが台頭しています。まったく頭を使わないでも愛国者になれるようになってしまった。
古谷 いまネット右翼になる人は、とにかく、長い活字を読むのが苦痛。情報源は動画チャンネル。その動画もできるだけ短い方がいい。チャンネル桜の動画(20分〜3時間)を見るのも苦痛で長尺に耐えられない……という中高年だったりするわけです。そしてそれを全部の思考のソース元として、世界観を培養させていく。
安田 最近聞く「久しぶりに帰省したら田舎の親がネトウヨになっていた」みたいな話ですね。うちの親はまだ大丈夫なのですが、地元(滋賀県)で中高年の方と話していると、ここ数年でその手の主張を聞いたことが何度かあります。フェイスブックでフレンドになった近所の70代のお爺ちゃんが『保守速報』をシェアしていた……とか。
古谷 ええ。これって、日本人全体が知的に劣化したとか、日本の世論が右傾化したとかいう話で語られがちですが、僕はそうではないと思うんですよね。むしろ、どの時代やどの社会にも一定数は必ず存在する、知的に怠惰な層や「情報弱者」層が、ネット右翼の主張に取り込まれるようになっただけじゃないかと。
ネトウヨは今後どうなるのか?
安田 最近、5ちゃんねるの「なんJ」板で「ネトウヨ春のBAN祭り」という動きが出ていて、YouTubeのネット右翼系動画を、運営に規約違反で通報しまくって削除させているんです。いま、ネットの不謹慎系のアーリーアダプターの遊びの方向は、ネット右翼をいじって馬鹿にする方に向きはじめている感じもしますよね。
古谷 最近の動きにはかすかに光を感じますね。ネット右翼が好む動画チャンネルがYouTubeの規約違反で続々アカウント停止を食らったり、韓国人を「猿」、中国を「蟲国」などと表現していたラノベ作家の作品がバッシングを受けてアニメ化が中止になるなど、揺り戻しが来ていると思います。
安田 中国で憤青(中国版ネット右翼)を揶揄するネットスラングに「君は国家を愛しているが、国家は君を愛してないよ」という言葉があります。ネット右翼の人たちは安倍政権が大好きですが、安倍政権と彼らの関係もこのことわざが当てはまりそうです。「君は安倍さんを愛しているが、安倍さんは君を愛してないよ」と(笑)。
古谷 そうですね。「モリカケ」問題で揺れた安倍政権も、今秋の総裁選で三選が決まれば、ネット右翼はたいした票田でもないですから、逆に迷惑な存在になると思います。現在の自民党の支持層は、穏健保守層や宗教票ですからね。ネット右翼は淘汰されていくかもしれません。
安田 全体的に退潮傾向にあるのは確かでしょうね。
古谷 ただ、ネット右翼の中心部はそれでも残り続けると思います。私もいったんはこの世界に入った経験からして、その責務という意味でも、常に彼らに対するウォッチと監視を怠らない覚悟でいたいところです。