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儲かるのは「教祖」だけ

安田 作中に登場する「波多野研究室(ハタ研)」の閉鎖性や異常性は凄まじいものがあります。みんなでサヨクや韓国人を罵倒しながら、スクリーンに映る「(ネット右翼基準での)反日分子」にピンポン玉を投げつける憎悪イベントがあったり、みんなで竹槍を持って、論敵に見立てたカカシを突き刺したり。

 一昔前に勢力を広げていた在特会(在日特権を許さない市民の会)などを見る限り、似たようなネット右翼サークルは現実にも存在するはずでしょう。ここまでくると、一種のカルトに近いかもしれません。

ヘイトデモを行う在特会 ©AFLO

古谷 「信者」の囲い込みによる定収入の確保は、保守言論人たちの経済的生命線です。ただし、囲い込みは利益を上げますが、その言論は自閉的になり、普遍的な世論に通用しなくなる。結果、「カルト化」が進んでいくことになります。「教祖」だけが儲けている点も含めて、新興宗教と似たところはあると思いますね。

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「ヘイト本」が連発される本当の理由

安田 作中に登場する保守ムラ言論人たちの著作は、現実の日本社会ではいわゆる「ヘイト本」に相当するでしょう。書店によく平積みになっていますし、刊行点数も多いようです。出版社が安心してああいう本を出すのは、保守ムラ言論人が囲い込んだ会員たちが必ず本を買ってくれるので、売り上げの見通しが立ちやすいからでもあるんでしょう。

古谷 その通りだと思います。ヘイト本の作者は、出版前にまずは囲い込み会員に対して宣伝しますから、そうするとアマゾンランキングが急激に上がる。すると編集者も上司も納得する。仮に重版がかからないにしても、損益ラインを超えてそこそこは売れる。だから次も出す、という構図です。

安田 一部のヘイト本は、大手・準大手の出版社からの商業出版であっても 、まともな校閲をしていないのではと思えるほど内容が雑です。中国関連で言えば、ある中国経済研究者の名前とネット右翼系ユーチューバーの名前を取り違えたまま出版した本や、「曹操の勢力範囲は北京のあたり」と大間違いが書いてある中国史の本、ネット記事の丸パクリが大量に発見された中国経済本など、なかなかすさまじい書籍が多々あります。

『愛国奴』の作中では、波多野や土井が「信者」向けの講演で適当に喋った内容の文字起こしをそのまま書籍にしてしまう話が出てきますが、現実でもそうやって作られている本があるのかもしれませんね。先の例で言えば、名前の取り違えや「曹操の勢力範囲は北京」といった記述は、口述筆記の原稿を校正しないまま出版しているからだと思われます。

古谷 ええ。それでも、数千人の取り巻きたちが「基礎票」になるわけですから、この出版不況のなかでは奇跡的なコンテンツです。しかも、取り巻きたちはネット上で勝手に宣伝活動にいそしんでくれるので、宣伝費もかからない。出版社としては、ヘイト本はかなりの「安牌」ですよ。

安田 一部の宗教団体の書籍が、ベストセラーランキングの上位に来るのと似ていますね。