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ネトウヨを描くため小説に初挑戦

安田 そのうえで小説『愛国奴』の話です。古谷さんの小説初挑戦でもある本作は、作者の経歴や経験に基づく一種の自伝的小説であるかと思います。

古谷 完全なフィクションですよ(笑)。ただ、自伝的小説の要素は一切無い、と言えばウソになります。

『愛国奴』で小説に初挑戦した古谷経衡氏

安田 当初はノンフィクションとして書いていたが、小説に切り替えたとも聞いています。

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古谷 ネット右翼や保守ムラの動静は、ノンフィクションにすると、かなり長文の説明が必要になります。ネット右翼と保守ムラの共依存関係は、拙著(『ネット右翼の終わり』晶文社)でも書いたのですが、かの業界の特異性を第三者に対してよりわかりやすく伝えるには、小説という形式が一番だと考えたのです。

『愛国奴』は構想としては3年弱温めてきたものですが、ノンフィクションから小説への変更企画は、かなり早い段階で決めています。執筆期間は1年強です。事前に一応、プロットを作っていましたが、保守ムラの動向がリアルタイムで変わっていくこともあって、プロットどおりにはなりませんでしたね。

愛国カルトの闇とカネ

安田 作中にはさまざまな保守系言論人が登場します。代表的なのは、私大非常勤講師だが学問に見切りをつけて愛国言論ビジネスに走った波多野、ネットの大規模掲示板発の韓国経済崩壊論の書籍がヒットした土井……といった人たちですね。彼らのモデルについて、私は思い当たるところがなくもありませんが?

古谷 いやいや、モデルとなる人物は複数存在しますが、登場人物はいずれも架空の人物です。しかも、複数のモデルに対して大幅に想像とエンタメ要素を追加しているので、私としては元ネタがなにか分からなくなっていますね。作中での波多野と土井の内ゲバ事件も、完全に架空です。ただ、小説以上に低レベルな類似の事件は日常的に見聞していますが……。

安田 『愛国奴』では、ネット保守言論人たちのネトウヨ囲い込みビジネスの実態が詳述されており、作中の準主人公とも言える波多野の年収は1千万円をオーバーしています。トンデモ言説でコアなファンを引き寄せ、彼らを「○○ゼミ」や「☓☓研究室」といった取り巻きサークル組織に加入させる。そして、会費を定期徴収したり高額の合宿を主催することで財政の基盤を築く。「保守ムラの言論人ってこうやってカネ稼いでいるのか!」と、驚かされたところがありました。

古谷 こういうエンクロージャー(会員囲い込み)商法は、保守ムラの言論人の収益構造の根本をなしています。作中と類似のカネ稼ぎ術は実際の保守ムラにも実在しますよ。浮き沈みの激しい言論人が恒常的に収入を確保しようとすれば、エンクロージャー商法しかありません。

安田 WEB言論系や意識高い系の一部のオピニオンリーダーなんかにも共通する構造かもしれませんね。有料メルマガや有料会員制サイト・有料セミナーなどを通じて、信者からお金を定期的に吸い続けるという。

古谷 その通りです。他にも「自分磨き」「キラキラ女子」はては「オカルト陰謀論」界隈でも、似た構図は存在します。ただ、こういう熱心なファンを囲い込んでお金をむしり続ける手法は、保守ムラの周囲では特に色濃い印象です。なにせ「嫌韓・反中・反朝日・反サヨク」と、みんなずっと同じ主張を繰り返している人たちですから、つなぎとめるのは容易です。