説明書には「ガノンを倒すためのヒントストーリー」

『ゼルダの伝説』は画期的なゲームだが、その理由の多くは「挑戦」にある。このゲームの説明書には、物語の背景が英雄譚的に記されている。

『スーパーマリオブラザーズ』と同じように、この王国も大魔王(ガノン)に侵略されており、『スーパーマリオブラザーズ』と同じように、プレイヤーはすべてを元の状態に戻せる姫を救わねばならない。

 冒険を呼びかける文章は、次のように締めくくられる。

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「果たしてリンクはガノンを倒し、姫を救うことができるだろうか。それは君の腕にかかっている」(『ゼルダの伝説』日本版説明書 7)。

 説明書のなかには「ガノンを倒すためのヒントストーリー」なるものがあり、地下迷宮への入口がいろいろな場所に隠されていること、その入口の在り処を探る手がかりもどこかで得られることなどが記されているため、プレイヤーは探索へと駆り立てられるばかりか、「先を急ぎすぎるのは危険です」(47)とさえ指示される。

©AFLO

 ゲームが始まると、プレイヤーは自分の名前を入力するよう促され、カートリッジに情報が保存される〔NES版のみ。日本でのカートリッジ版はNES版に遅れて発売〕。セーブ機能の使用はゲームにおける重要な進歩だった。プレイヤーは一旦ゲームを止めても、またその続きから始められるようになったのだ。

 さらに重要なのは、ゲームの進捗が保存できるようになったことで、スキルがなく手間をかけるのが嫌いなプレイヤーではなく、時間と労力をかけながら進んでいくようなプレイヤーを想定した、複雑なゲームをデザインできるようになった点だ。

発売前には新しいコンセプトが「不安だった」

 宮本も、当初はゲームの複雑さを懸念していたと認めている。プレイヤーを遠ざけてしまうのではないかと考えていたからだ。2003年のインタビューで、宮本は『ゼルダの伝説』発売時を振り返り、次のように語っている。

「『ゼルダの伝説』は、次に何をすべきかをプレイヤー自身に考えさせる初めてのゲームでしたので、この新しいコンセプトにゲーマーたちが退屈したりストレスを感じたりしないかと不安だったんです。

 ありがたいことに、彼らの反応は真逆のものでした。こうした要素があったからこそ、ここまで人気になりましたし、今ではゲーマーたちが『ゼルダ』の謎解きがどれほど楽しいか、謎を解いて冒険が進むといかにうれしいかを語ってくれます」(“Super Play Magazine Interviews” 2003)。