任天堂で『ドンキーコング』、『マリオブラザーズ』、『ゼルダの伝説』といった、長い人気を誇るシリーズを生み出したゲームデザイナーの宮本茂。
“現代ビデオゲームの父”とも言われる宮本の経歴や実績をイリノイ工科大学教授のジェニファー・デウィンター氏が分析した『ゲームクリエイター 宮本茂』(DU BOOKS)より、一部抜粋して紹介する。(全3回の3回目/もっと読む)
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ゲームには暴力的な面と、教育的な面がある
ゲーム作家について語るならば、ゲームに関して広く知られた心理的な負の側面に触れずに済ますことはできない。
研究者のケン・マカリスターが著書『Game Work:Language, Power, and Computer Game Culture』のなかで指摘しているように、「その誕生以来、コンピュータ・ゲームは、プレイしている人間を知らず知らずのうちに変化させる能力を持っていることに対し、批判も称賛も浴びてきた」。
マカリスターは、ゲームにまつわる言説における矛盾点を検証している。たとえば彼によれば、コンピュータ・ゲームは暴力的だとみなされており、その暴力がプレイヤーに影響し、その人物を暴力的にしている可能性があるという言説がある。しかし同時に、コンピュータ・ゲームには教育的効果もあるため、教育にも活用できる、と彼は指摘している(McAlliser, 15-17)。
宮本の興味深い点は、彼が心理的な側面については意識的に主張を避けているということだ。
「僕のゲームに教育的な効果があると思ってない」
そのため、彼のゲームは商業的にも成功し、多くの人が語る対象となっているものの、それらのゲームの心理的な影響に関する議論はほとんど見当たらない。
教育的なゲームをつくる可能性はあるかと聞かれ、宮本はこう答えている。
「ありません。僕のゲームに教育的な効果があると思ってないんです。それよりも、子どもたちの世界を広げ、その世界を生き生きさせるものとして効果があると思っています」(“Shigeru Miyamoto Roundtable” 2001)。
言い換えれば、教育ゲームは楽しみを追求するものではない。そして宮本にとって、ゲームは楽しみを追求すべきものであり、遊び場で遊んだり、周りの人と一緒に遊ぶためにあるものだ。
ゲームデザインにかける宮本のエネルギーは、2章で詳しく見たように、こうした遊びを基盤とした生き生きとした世界構築に向けられている。
