例外的な格闘ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』
教育ゲームの例を取り上げたのは、ビデオゲームにおける暴力に対する宮本の立場を理解するのに役立つからでもある。
暴力や、怒りおよび悲しみといったネガティブな感情はビデオゲームで伝えやすいものだと宮本は言う(Palmer 2004)。
「質や目的があって暴力を活用するのはいいんですが、ただ刺激を与えるだけの安易な手段として暴力を使うことは避けたいんです。もし他のクリエイティブな表現手段があれば、暴力を使う必要はありません」(“Interview: Time Digital” 1999)と本人も言っている通り、宮本が自身のゲームで暴力表現を敬遠しているわけではない。
しかしほとんどの宮本作品に暴力的要素が存在してはいるものの、暴力がゲーム体験の中心に据えられることはない。
マリオはクリボーを踏みつけたり肉食植物に火を放ったりするし、『ゼルダ』でも謎解きだけでなくプレイヤーの戦闘能力が必要になる。ドンキーコングでさえ、自分を倒そうと向かってくる画面上のプレイヤーを殴りつける。
しかしながら、こうした暴力は作品の核ではなく、緊迫感を高めてドラマを引き立てるための副次的な要素にすぎない。
そんな宮本にとって例外なのが『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズである。
マリオ、カービィ、リンク、ピカチュウなどが一堂に
『大乱闘スマッシュブラザーズ』は、マリオ、カービィ、リンク、ピカチュウなど、任天堂作品に登場する多くのキャラクターが一堂に会し、闘技場で戦い合うゲームだ。
第1作の『大乱闘スマッシュブラザーズ』(任天堂1999)は、低予算でほとんどプロモーションもおこなわれず、日本だけの発売が想定されていた。
しかし、その成功を受けて海外版も発売され、シリーズ化されると共に、ファンや雑誌が選ぶソフトとして数々の賞を獲得した。
