幼稚園のころから将棋好きだった息子
私の息子は棋士を目指した時期はおそらく無かったが、将棋自体は好きだった。以前、まだ幼稚園年長の我が子の発言に驚いたことがある。
「パパ、タイトル戦は朝の8時から始まらないの?」
「どうして?」
「そうすれば幼稚園に行く前に観られるから」
殆どの子どもは自分で指すのが大好きだが、これはかなり珍しい。当時から「観る将」の片鱗があった。
順調に勝ったり負けたりをする我が子。ある年のテーブルマークこども大会では私は決勝戦の解説役だった。ついででもあり、我が子も大会に参加させた。
「うちの子どもも参加しているんですよ」
何気なく周囲に話した一言が大きな波紋を呼んだ。
「え? お子さんなら決勝まで勝ちますよね?」
「解説者がお父さんじゃまずい(公平性に欠ける)な」
何やら不穏な空気に。私は慌てて言うが全く聞いてもらえない。
「全然大したことないから大丈夫ですよ」
「いや、棋士の子なら強いに決まっている」
現場にいた将棋連盟の理事もこう言う。
「その場合は私が杉本さんの代わりに解説しましょう」
我が子も私も置き去りで進められた議論。なおその年、息子は予選落ちだった。
父親の株を上げてくれた木村九段
愛知県で行われたある子ども大会、私はゲスト棋士の木村一基九段にお願いして息子と記念写真を撮ってもらった。そこで木村九段はにこやかに我が子にこう言ってくれた。
「この前、君のお父さんに負けたよ。どうしてくれるの?」
私はその何倍も木村九段に負かされているのだが……これは息子には内緒。あれからしばらく、私は息子から尊敬の眼差しで見られるようになった。父親の株を上げてくれた木村九段には頭が上がらない。
今の棋力は初段前後だろうか。身近に将棋の内容が分かる家族がいるのは棋士として、父親として嬉しい。



