「キミは何て局面を作り上げてくれるのだ?」

 ここでファンの心理を考えてみよう。もしも読者の皆さんが藤井七冠と対局したら、何を目標にするだろうか? それは「王手」だと私は思うのだ。

「この前、藤井七冠と指してね、いや王手を掛けるまでは追い込んだけど、さすが七冠は強かった」

「え? 藤井さん相手に王手を掛けたのですか? 凄い!」

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『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』 (杉本昌隆 著)

 こうしてこの1年、スポンサーの方々は気分よく将棋連盟とお付き合いをしてくれるはずだ。

 実際のところ「王手」で勝ちに近づくかと言われたら、そうでもない。だが、(後一手で勝ち)の場面を演出するのは、棋士の最高のおもてなしであろう。

 さて、藤井七冠の盤面を見ると……金銀3枚で囲われた堅陣。しかも守備力の高い馬までくっ付いているガチガチの「馬付き居飛車穴熊囲い」である。王手の掛かる余地など1ミリも無い。

 藤井君……キミは何て局面を作り上げてくれるのだ?

局後に反省する藤井七冠

「穴熊は悪手でした……」

 局後に反省する藤井七冠。彼は将棋盤を前にしたとき、最善手しか選べない体質なのだろう。でもきっと、指した直後にこう思ったはずだ。

(しまった、いつもの癖で一番厳しい手を選んでしまった)

藤井聡太七冠 ©︎文藝春秋

 私は師匠として、後で厳しく藤井七冠を叱りつけておきましたよ。

 とはいえ「藤井七冠がお相手をする」ことに最大の意味がある。皆さんは本当に楽しそうだった。

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