さまざまな「ニセコ」

 いや厳密にいうと、今書いたことは正確ではない。というのは、ニセコのどの町で起きている話かわからないからだ。

「ニセコ」と一口に言っても、「ニセコエリア」は、ニセコ山系にまたがる5つの町、すなわち倶知安(くっちゃん)町、蘭越町、ニセコ町、共和町、岩内町で構成されている。

 この中で、とくに多くの観光客が集まる「ニセコ観光圏」を構成しているのは、4つのスキー場のある標高1308メートルのニセコアンヌプリという山の麓でつながった3町。それが倶知安町、蘭越町、ニセコ町である。

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 かつて倶知安町に住み、20年ほど前からニセコ町に住んでいるという住民は、「一緒くたにされがちですが、それぞれの町は、人口も、広さも、条例も、地価も、降雪量も、雪の降り方だって全く違うんですよ」と教えてくれた。

白樺派の作家・有島武郎はニセコ町の大地主だった。写真は、有島が所有した土地に建てられた有島武郎記念館。背景に見えるのは羊蹄山 ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

「東洋のサンモリッツ(スイス有数の保養地)」として知られる倶知安町は、ニセコ観光圏で最大規模のスキー場「ニセコ東急 グラン・ヒラフ」を擁する。人口は約1万5000人の中核都市で、2019年10月のG20観光大臣会合は、同町内の「ニセコHANAZONOリゾート」で開催された。2038年以降に延伸される北海道新幹線の新駅も、倶知安町内にできる計画だ。

 地価はどうか。2024年の商業地標準地の公示地価は、坪あたり約46万2000円だが、実際には坪あたり100万~150万円で売買される土地も出ている。「バブっている」「ほぼ外国」などとニュースになる現象は、ほぼこの倶知安町で起きている。

 一方、蘭越町は、ニセコ連峰に囲まれた盆地で、稲作を中心とした農業が盛んな町だ。時に「奥ニセコ」とも称される。

ニセコエリアを流れる尻別川は、流域の町村による保全活動が盛ん(著者提供)

 町の中央には、清流日本一に20回以上選出された尻別川が悠々と流れている。流域の肥沃な土壌で作られる「らんこし米」は、北海道のブランド米の一つだ。人口は、約4300人(2024年)。65歳以上が40%を超え、高齢化が進む。都道府県地価調査による商業地平均価格(2024年)は、坪あたり約5万1570円で、3町の中では最も安い。

※本記事の全文(約8500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年9月号に掲載されています(吉松こころ「沸騰するニセコ不動産市場」)。全文では、下記の内容をご覧いただけます。

 

・さまざまな「ニセコ」
・町名ごと変更した「ニセコ町」
・「ニセコルール」ができるまで
・住民参加のまちづくり
・観光協会を株式会社化
・尻別川カヌー計画
・「乱開発が起きている」のウソ
・引き継がれる有島武郎の精神

出典元

文藝春秋

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