「不動産は化け物だ」とつくづく思う。
同じ場所から写した写真を、毎年元日の朝、送ってくる友人がいる。赤坂のタワーマンション27階に住む中田さんだ。今から約10年前の2014年の元日、その東の窓には、金色に昇っていく初日の出が映っていた。照らされた都心のビル群は、朝露に濡れた蔓(つる)のようにきらきらと輝いていた。ちょうど完成間近の「虎ノ門ヒルズ森タワー」が、リビングからの眺望に花を添えた。しかし、毎年毎年、その風景は劇的に変わっていった。
2017年に溜池山王駅直結の「赤坂インターシティAIR」ができ、2019年には建て替えの新「虎の門病院」、新ホテルオークラ「オークラ プレステージタワー」が完成した。翌2020年には、「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」と「東京虎ノ門グローバルスクエア」、「東京ワールドゲート 神谷町トラストタワー」が相次いで誕生し、2022年には「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」が出来上がった。どれもこれも高さ100メートル級だ。まるで壁でもできていくかのように、中田邸のマンションの東側を覆っていく。
そうこうしていたら地下鉄日比谷線の新駅・虎ノ門ヒルズ駅ができ、これと一体化する形で「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が仕上がった。さらに2028年竣工予定の「TBS40階建て新タワー」が控えている。
東京タワーをすぐ真上に見上げるこの辺り一帯は、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で、俳優・堤真一の運転する三輪ミゼットが、ガッタンガッタン走り回っていたあのエリアだ。1958(昭和33)年が舞台の映画だったが、あの頃は道路だって舗装されていなかった。
中田さんのマンションの窓からは見えないが、2023年11月には、日本一の高さで、森ビルが2019年の着工までに30年の歳月をかけた「麻布台ヒルズ」も開業し、1キロ圏内にそびえたっている。

年々御来光を拝めなくなっていく中田さんは残念そうだが、それと引き換えに、自宅がある東京都港区の不動産価値はぐんぐん上がっている。
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source : 文藝春秋 2025年6月号