東京に逃資する香港人

第2回

吉松 こころ ジャーナリスト
ニュース 経済 中国 マネー

100億円超の物件がすぐ売れる現場をルポ

 235億円、192億円、135億円、とびきり安くて、40億円値引きの76億円、これらを何の数字だと思われるだろうか。昨年11月、香港で売りに出ていた一軒家の価格だ。

 香港島側に連なる山はその頂上に向かって「ピーク・ロード(Peak Road)」と呼ばれる道が延びている。車2台がギリギリすれ違うことができる細い道路だ。頂上に向かえば向かうほど視界は開け、100万ドルの夜景と謳われた香港市街地と対岸の九龍半島、そして両者の間で悠然と波打つヴィクトリアハーバー、そこを忙しく行き来するスターフェリーを眼下に捉える。香港一高く、上層階にはリッツカールトンが入る118階建てのICCビルも、金融街セントラルのランドマークで香港2位の高さを誇るインターナショナルファイナンスセンターも、山頂からは見下ろす形になる。

 私たちが香港の金融街セントラルの象徴のように仰ぎ見る高さ400メートル級の建物群よりずっとずっと上に位置する天上の世界だ。香港の富裕層が住んでいたのはそういう場所だった。

ピーク・ロードから見た香港中心部(筆者撮影)

 昨年、その一帯にある家々が大量に売りに出た。

 その理由を、香港人で不動産投資家の簡國文(ジエングオウエン)氏はこう説明した。

「香港の富裕層が自宅なり投資用に所有していた邸宅なりを手放し、アメリカや日本、カナダなど他国に移住し始めているからです。また全く同じタイミングで、中国本土から香港に移住や資産移転を考えている中国人富裕層が高く買ってくれています。この需要と供給が絶妙に合致した時期が今なのです」

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source : 文藝春秋 2025年7月号

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