通算2133安打・408犠打を記録し、10度のゴールデングラブ賞を受賞。堅実な守備と高い戦術理解度で長年チームを支え、WBC(2006)では世界一メンバー、2008年北京五輪では日本代表主将を務めた、宮本慎也氏。現役引退後はNHKの野球解説者として活動しながら、学生野球の指導にも力を注いでいる。

 そんな宮本氏が、豊富な実績と経験に、現代のデータ分析を融合させ「戦略としての野球」に本格的に切り込んだ著書『プロ視点の野球観戦術 戦略、攻撃、守備の新常識』(PHP新書)を上梓した。ここでは同書より一部を抜粋し、日本人の“フライ嫌い”に対する宮本氏の考えを紹介する(全2回の1回目/2回目に続く)

現役時代の宮本慎也氏 ©文藝春秋

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日本人はフライが嫌い

 単打ばかりのアベレージヒッターより、長打力のある長距離砲の方が、価値がある打者だということは、打率とOPSの比較でも分かってもらえたと思います。それならなぜ、日本ではOPSが浸透しないのでしょう。

 さまざまな要因はありますが「日本人はフライが嫌い」という点に集約されてくると思っています。

 甲子園での野球中継を聞いていても、フライを打った瞬間に実況アナウンサーが「あぁ! 打ち上げてしまったぁ~!」と叫んでいるのをよく聞くでしょう。続けてアマチュアの解説者が「そうですね。アッパースイングではなく、上からたたきつけてゴロを打たないといけません」とダメ押しします。

「これじゃ、日本の野球はレベルが上がらないよ」

 そんなやり取りを聞くたびに「これじゃ、日本の野球はレベルが上がらないよ」と心の中で涙を流しています。

 アマチュアの解説者には大変申し訳ないのですが、これが現実です。それを聞いた小学生や中学生の指導者が「そうだよな」と納得して、フライを嫌いになっていくのです。ひどいのは、フリー打撃などの練習で「フライ禁止」と指導するコーチが多いことです。

 ケースバッティングなどで、エンドランなどの練習ならいいのですが、バッティングの技術向上を狙うなら逆効果です。これが日本の打撃レベルが上がらない原因のひとつになっています。

 もちろん、ダメなフライもあります。バットが外側から入ってしまうと、擦ったようなインパクトになり、ボールをカットしたようなフライになります。この手のフライは飛距離も出ません。