「ダメなフライと紙一重のフライの区別がつかない人が多い」実情
しかし、ホームランと紙一重のフライがあります。タイミングがドンピシャで、わずかにボールの下を叩いてしまったような打球です。右打者のショートフライ、左打者のセカンドフライは、僅かな打ち損じが多く、決してダメなフライではないことが多いのです。
現在、中日ドラゴンズの中田翔選手が、夏の甲子園大会に大阪桐蔭高校の1年生で出場したときのことでした。
打った瞬間、ショートへのポップフライだと思った打球がなかなか落ちてきません。その滞空時間の長さに度肝を抜かれました。もう少しボールの上を叩いていたら、どこまで飛んでいったのだろう……。まさにホームランと紙一重のフライでした。
ダメなフライと紙一重のフライの区別がつかない人が多いのが実情です。それなのにどんなフライでもフライはフライと決めつけ、ダメとしてしまいます。指導者や選手、そして野球ファンに「フライはダメなもの」という印象が強いからだと思います。
「フライボール革命」が受け入れられない要因とは
もちろん私の性格上、黙っていられません。NHKの解説者を務めているため、同局のスポーツアナウンサーとは、プロ野球のキャンプ視察や中継で顔見知りです。仲の良いアナウンサーには「フライを打ったときに残念そうなしゃべり方をするな」と、軽い“説教”をします。
すると「なんて表現すればいいんですか?」との素朴な問いに言葉を失います。「ホームランと紙一重の打球だぁ!」では言いにくいでしょう。「打球が上がったが……」とそのまま言うしか思いつきません。私自身、何かよい表現があれば、教えてもらいたいと思っています。
こうした「フライ悪説」がフライのイメージを悪くしているのか、もともとフライが悪いと思っている人が多いからなのか、どちらが最初なのかは分かりません。
ただ、日本では「フライ」という言葉が悪くなるのも理解できます。ホームランもフライなのですが、日本人がイメージする「フライ」は、内野へのポップフライではないでしょうか。アメリカではホームランも内野フライも同じ「フライ」で、日本人とは受け取る印象が違うのです。
このフライを毛嫌いする日本野球が、メジャーの「フライボール革命」を受け入れない要因のひとつになっていると思っています。
