やなせもこの仕事を通じて、アニメ映画の制作に魅力を感じるようになっている。
キャラクター・デザインの仕事は脚本を読んで物語をよく理解し、その内容やテーマに合うように登場人物たちの顔や髪型、服装を考えてキャラクターを作るのだが、それが面白い。
小説を読んでいる時も、文章を映像に置き換えてあれこれと想像をめぐらせる。それとまったく同じことだ。大の読書好きなだけに、その感覚は鍛えられている。
「漫画家よりもキャラクター・デザインの仕事のほうが、ぼくに向いているかも」
などと、思ったりもする。『ボオ氏』の連載が終了してからは、漫画家としてはまた失業状態。
50歳にもなったというのに、いまだ鳴かず飛ばずではもう見込みがなさそうだ。漫画家の仕事は諦あきらめの境地になりつつある。
手塚から短編の監督を任され、アニメに熱中
そんな揺れる心を見透かしたように、
「映画のヒットのお礼です。短編アニメーションを1本作ってください。何でもいいです、やなせさんの自由にやってください」
手塚がこんなことを言いだす。映画のヒットに気をよくして、大盤振る舞いのご褒美をくれたのだった。
映画監督としてデビューすることになった。映画好きの血が騒ぎ好奇心を搔き立てられて、電話を受けた直後からやる気満々。アニメ映画の仕事を本職にするのもありだな、と、この時は少し本気で考えていた。
「さて、どんな映画を撮ろうか」
頭に浮かんできたのが、2年前に作ったラジオドラマ『やさしいライオン』だった。孤児のライオン「ブルブル」が育ての親のメス犬を探して動物園から脱走し、悲しい結末を迎えるという話。親子の愛情をテーマにした、やなせのお気に入りの作品だ。
『やさしいライオン』をアニメーションに
ラジオドラマの台本をそのまま使って絵コンテを作り、作品のキャラクターを描いてみる。と、映画の主人公・ブルブルの顔は、昔、柳瀬医院の入口に置かれていたライオンの石像に似ているような……。