同じ日付の埼玉読売(読売埼玉版)は「高階村の猟奇殺人事件 乳房など肉片発見」の見出し。解剖結果から「切断された両足のうち、右足はかかとからももの付け根まで、左足は膝からももまで切り取られており、両乳房や下腹部の肉片は約100メートル離れたサツマイモ畑と氷川神社の計4カ所で6つ発見されたが、いずれも(長さ)5~6センチで、凶器は鋭利な刃物とみられる」と書いた。
さらに埼玉大助教授(当時)の「(ヒロポン患者以外の)普通の人間としたら、よほどの異常心理を持った変質者の仕業だと思う」との談話を掲載。浦和脳病院長にも「手口を聞いたところでは、精神病質者の犯行と思われる」と語らせている。
7日付毎日夕刊は23歳の「浮浪者」を逮捕して取り調べていると報じたが、逮捕日時をみると、朝刊で「特に名を秘す」とした「某」と同一人物とは考えられない。記事では「犯人はバラバラ遺体を持って現場付近を延べ約2キロにわたってさ迷い歩いていたことが分かったうえ、下腹部の一部の肉片を身に付けていたことが推定された」と、またも衝撃的な事実を明らかにした。
さらに、新聞は詳しく報じなかったが、一審の無期判決を破棄して死刑を言い渡した1956年8月30日の東京高裁控訴審判決はこう指摘している。「殺害後、その死体を寸断して肥だめ内に抛棄(放り捨てる)し、あるいは恥部の肉片を神社の境内や神殿内に撒布するに至っては、まさに天人共に許さざる凶悪非道な犯行というほかはない」。9月11日付埼玉読売には次のような記述も。「下腹部にも布切れ(五女のシュミーズを裂いたもの)が丸め込まれていたことが分かった」。確かにすさまじい犯行手口といえる。
「性格異常」「変質者」…容疑者次々と
9月8日付埼玉も「解剖結果から、犯行は怨恨または痴情説に捜査のポイントが置かれ、性変質者の単独犯行との見方が強くなっている」と書いた。現場の高階村は、9月10日付埼玉の記事によれば面積6平方キロ、人口5624人の純農村で、村民は純朴。約240人の青年団にも悪い風紀問題はないという。そんな村で起きた猟奇的な事件に新聞報道はエスカレートし、加熱する。捜査本部は“浮浪者狩り”を実施。各紙には付近を徘徊する「浮浪者」や「不良」ら、容疑者が競って登場し、センセーショナルな取材合戦となった。

