何十年も同じものを頼む棋士も

 2018年の平昌(ピョンチャン)五輪では、カーリング選手がハーフタイムに車座になっておやつを食べながら作戦を話し合う「もぐもぐタイム」が話題になりましたね。スポーツ、将棋と同じように頭を使う受験やプロゲーマーの世界でも、本番の間にどうやって食事を摂れば高いパフォーマンスを発揮できるかが注目されています。管理栄養士が食事を考えるケースもあるようです。ただ、将棋の対局に比べると試合や試験の時間は短いので、その知見が必ずしも生きるわけではないかもしれません。現状は、それぞれの棋士が経験則で食事を決めていると思います。食事を悩むと集中力が途切れてしまうからと、対局中の出前注文を前もって決めるどころか、何十年も同じものを頼む棋士もいます。加藤一二三九段は一時期、昼も夜もうな重でした。

うな重弁当にご満悦の加藤一二三九段 ©︎文藝春秋

 将棋界でブログ、つまり文章や写真によるネット中継が始まると、やはり食事情報がコンテンツとして人気になりました。特に番勝負の大舞台は全国の名宿やホテルで行われるため、その地方の名物が提供されます。「ニコニコ生放送」は対局室にカメラを置いて開始から終局、感想戦まで一日中密着し、食事の時間になれば何を注文したかを紹介しました。他の棋士が同じものを食べて感想を言う、いわゆる食レポの企画も多かったです。そこだけを切り取れば、さながらグルメ番組ですね。日本全国を回る番勝負で様々な食事が提供されますし、将棋中継は放映が12時間を超えることもざらにあるので、箸休めの話題として相性もよかったのでしょう。2017年に将棋界の動画中継に参入した「ABEMA(株式会社AbemaTV)」も、食事情報のコーナーを設けています。

『キホンからわかる 東大教養将棋講座』 (勝又清和 著)

 ドワンゴは経営方針の転換により、2020年で叡王戦から撤退しました。後を引き継いだのが食品メーカーの不二家です。メディア以外の企業が主催になるのはとても珍しいですが、不二家からすれば対局中に提供するおやつが宣伝になるメリットがあると判断したのでしょう。主催になる前、藤井聡太さんが対局中に食べた不二家のチョコレートがネットで話題になったことがあったので、その宣伝効果も証明済みだったはずです。

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 先述したように、藤井聡太さんの活躍に伴って将棋界が注目され、現在は多くの棋戦に主催者以外の協賛がついています。金融や不動産、アミューズメント、食品、セキュリティサービスなどさまざまな業界が将棋界を支えてくれています。

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