かつてのリポビタンDと同様に「強壮」と「男らしさ」を打ち出していた栄養ドリンクの広告として、バブル全盛の1988年に登場したリゲイン(三共、現在の第一三共ヘルスケア)が挙げられます。CMでは俳優の時任三郎が「ビジネスマン」を演じ、企業戦士たちの集団が全力を尽くして奉仕する姿が誇張と風刺を込めて描かれていました。

リゲインの雑誌広告(『日経アントロポス』1989年11月創刊号、Amazonより)

 翌年発売されたCMソング「勇気のしるし」は、「黄色と黒は勇気のしるし 24時間戦えますか」というフレーズで知られ、勇ましい軍歌調のメロディに乗せて世界各地に出張する「ジャパニーズ・ビジネスマン」を鼓舞しています(現在の目線で聴くと、人権が蹂躙された劣悪な労働状況を手放しで賛美する内容です)。

 その後バブル経済の崩壊を経て、1999年にリゲイン系列の商品として発売された錠剤「リゲインEB錠」のCMでは、「この曲を、すべての疲れている人へ。」というキャッチコピーが添えられた坂本龍一のピアノ曲「Energy Flow」が起用され、癒しを希求する消費者にアピールしてヒットしました。栄養ドリンクのリゲインとリゲインEB錠では、商品の効能や趣旨も異なるため同列に扱えない部分もありますが、「勇気のしるし」と「Energy Flow」というCMソングは、それぞれにバブル経済の狂騒の中で推進された「強壮」とバブル経済の崩壊後の「疲労」を表現し、時代の空気を反映した楽曲として多くの人の記憶に刻み込まれています。

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消費者の意識に刷り込まれている「ファイト・一発!」のキャッチフレーズ

 リポビタンDに話を戻すと、リポビタンDが発売されたのは高度経済成長期の1962年で、発売当初から広告に野球選手(巨人軍のエンディ宮本、王貞治)を起用して「ファイトを飲もう!」「ファイトで行こう!」と、「ファイト」という言葉で消費者を鼓舞するメッセージを打ち出していました。

 1977年から使用されている「ファイト・一発!」ほど長きにわたって日本の消費者の意識に刷り込まれている広告のキャッチフレーズは珍しいでしょう。リポビタンDに対抗する形で1965年に発売された栄養ドリンクのオロナミンC(大塚製薬)のキャッチフレーズ「元気ハツラツ!」も現在にいたるまで親しまれており、双方ともに商品のキャッチフレーズにとどまらず、生活の中でかけ声や標語のように定着しています。

 大半の広告のキャッチコピーは、キャンペーンごとに作られるものであり、優れたキャッチコピーが話題を集め、流行語のように知れ渡ったとしても、「ファイト・一発!」や「元気ハツラツ!」のように何十年にもわたって商品やブランドとともに広告で繰り返されているものは極めて稀です。人々が日々の生活の中で繰り返し目にして購入する飲料の広告だからこそ、それが可能だったといえます。

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※1 リポビタンDの広告の変遷については以下を参照。ダブルタレント時代の幕開けは1977年で、CM自体は1970年代から放映されていました。「リポビタン広告の歴史」大正製薬製品情報サイト
https://brand.taisho.co.jp/lipovitan/lipod/advertising/
※2 「男らしさ」を打ち出してきたリポビタンDの広告の文脈に照らし合わせて、広告表現の問題が指摘されています。
・千駄木雄大「『リポビタンD炎上』背後に“男らしさ”の負の遺産」東洋経済オンライン、2024年7月17日
https://toyokeizai.net/articles/-/777855
・千駄木雄大「リポビタンD『時代錯誤CMで炎上』に見る栄枯盛衰」東洋経済オンライン、2024年7月18日
https://toyokeizai.net/articles/-/777854

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