「NHK草創期」の指導を務めたテッドさんの文章を発見

 まず、「テレ」の部分は、テレフォン(電話)とかテレグラム(電報)とかテレスコープ(望遠鏡)などと使われるように、いわば「遠距離」とか「遠隔」の意味だった。そして「ビジョン」は「見ること」「視力」「景色」「幻」といった意味だ。すると「テレビジョン」は「遠くを見ること」とでも思えばいいのか、なるほど、いま東京のスタジオにいる私を、同時に北海道でも見ることができるものね、と納得した。興味深かったのは、この「テレビジョン」という言葉を創った人が、フランスの図書係の人らしい、というだけで、名前も何も残っていないことだった。

 この資料探しの時に、NHKがテレビジョンの本放送を始める前に、アメリカから招聘(しょうへい)したテッド・アレグレッティという人の「NHKテレビジョンへの期待」という文章も私は発見した。

渋谷のNHK放送センター ©文藝春秋

 アメリカは日本より十二年早く、一九四一年からテレビジョンの放送を始めた。テッドさんは、NBCなどで活躍した方で、NHKのテレビジョン放送の全般にわたる指導や企画に関わった。私が見つけた文章は、NHK及び、近い将来テレビジョン放送を開始する民放に向けた、テッドさんのメッセージだった。

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テレビジョンの仕事につけてよかった、と心から思った

「テレビジョンは、世界に現存する、あらゆる機関の中で、最も有力な教育宣伝の媒介物であることは、否定できない。吾々(われわれ)の文化が、向上するか、堕落するか、正しい人類向上の道をたどるか、或あるいは、その進歩の道をはずれるかは、テレビジョンに、かかっている、ということが出来よう。かくて、世界各国の国民は、テレビジョンの力により、お互いに自分の姿を、さらけ出すようになり、世界各地の慣行習俗も、今までの孤立の殻を破って、お互いの眼の前に現われてくる。かくて、今まで人類が夢想だにできなかった国際間の、より大いなる理解と永遠の平和の可能性が生れてくる。これがテレビジョンの力なのである」

テレビに観入る人々 ©文藝春秋

 つまり、よその国の戦争でも、結婚式でも、普段の食卓でも、自分の家のテレビで「遠くを見ること」ができるようになる。また、反対に、自分の国のことも、世界中の人が見るようになるだろう。テレビジョンという新しいメディアの力は、こういう映像を通じて、各国、各民族の相互理解を深め、これまで人類がなしえなかった平和な世界を作ることを可能にするのだ──。

 若かった私は、息をのんだ。こういう力を持ちうるテレビジョンの仕事につけてよかった、と心から思った。