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衝撃の講談師・神田松之丞が語る「“あの番組”で笑いを取りに行かなかった理由」

テレビっ子講談師・神田松之丞インタビュー #1

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「ここは笑い、いらないな」と思った『ENGEIグランドスラム』

―― 今年の4月にはフジテレビの『ENGEIグランドスラム』に出演されましたよね。オファーが来た時はどう思いましたか?

松之丞 ちょうど「旅成金」のユニットで、落語家2人と僕で旅してる時にオファーがあったんですよ。それで一緒にいた瀧川鯉八っていう落語家に「どう思う?」って聞いてみたんです。そしたら「いいよ。松ちゃんハネるよ。もう目に浮かぶわ」って。囃されたら踊れだと思っているので、どっちにしろ出演していたとは思うんですけど、信頼する人がその時に一番近くにいたというのは嬉しかったですね。

 

―― これまで古典芸能のジャンルから出演されたのは、現在の三遊亭円楽師匠とか。

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松之丞 円楽師匠が『グランドスラム』に出た時にハネたのは観てたんですよ。「猫の皿」っていう噺を10分ぐらい、非常にテレビ的に、オチもはっきりとさせて演ってらした。やっぱりテレビを知ってる人だから、テレビの映りでどうやって間をとってやればいいかということを熟知している。そういう意味でいくと100点なんですよ。円楽という知名度がある人が古典落語で、しっかりとウケもとって、パッケージとして完璧だった。それに対して志らく師匠が、「俺が出たら……」みたいなことを言って。

―― ああ(笑)。

松之丞 その志らく師匠と一緒に『グランドスラム』に出ることになっちゃったわけですけどね。現場で思ったのは「ここは笑い、いらないな」ということ。ただ“凄み”だけを見せていけばいいかなって考えました。どうしてかというと、『グランドスラム』のお客さんはお笑いが好きで、笑いに来ているお客さん。だから、この子らに笑いを忘れさせて、「うわぁ、すごい」と吸い込まれるような空気を出せれば、俺の勝ちだなと。

手応えとしては「夜明け」みたいな感じ

―― 事前に演出の藪木健太郎さんからは何か言われていましたか。

松之丞 特にないですけど、事前にネタ見せをしたんですよ。「鼓ヶ滝」と「山田真龍軒」。要するに円楽師匠がなさった「猫の皿」が引き芸なので、「鼓ヶ滝」のようなものがいいのか、それとも逆に迫力で押し切る「山田真龍軒」がいいのか。そしたら「これは迫力でいった方がいいでしょうね」と。

 

―― まさに笑いを取りにいかない、『寛永宮本武蔵伝 山田真龍軒』の熱演でした。

松之丞 収録は深夜25時30分くらいからで、その日は独演会もあったから5席目だったんです。正直ヘトヘトでしたけど、逆にいいテンションでできたと思います。食ってやろうみたいな感じで、勝負かけました。

―― 声の出し方や大きさは、テレビだからちょっと違う張り方だったりするんですか。

松之丞 あの日は違ってましたね。明らかにオーバーで、あんなやり方は絶対普段はしてません。普段を10とするならば、13~15ぐらいまで行ってたかもしれない。でもテレビ越しで観ると、あれぐらいがたぶんちょうどいいんじゃないかなっていう。どうしても魅力が限定されるから、あれぐらいガッてやってないと印象残らない。後付けですけどね。だからちょっと変な空気になりましたよ、終わった後。普段よりは視聴率はよくなかったらしいんですけど、講談というものがあそこで結構知れ渡ったかなとは思います。

―― いや、そうだと思います。

松之丞 ダウンタウンの松本さんにも観ていただいたらしくて。手応えとしては「夜明け」みたいな感じはありましたね。

 

#2 “講談界の超新星”神田松之丞が語った「芸人が終わるとき」
http://bunshun.jp/articles/-/8224

#3 「情熱大陸出るんなら、近い将来でしょうね」“生意気な”講談師・神田松之丞の「野望」
http://bunshun.jp/articles/-/8225

写真=鈴木七絵/文藝春秋

かんだ・まつのじょう/1983年生まれ、東京都豊島区出身。日本講談協会、落語芸術協会所属。2007年、三代目神田松鯉に入門。2012年、二ツ目昇進。2015年、「読売杯争奪 激突! 二ツ目バトル」優勝。趣味は落語を聴くこと。著書に『絶滅危惧職、講談師を生きる』(聞き手・杉江松恋)、新刊に『神田松之丞 講談入門』

衝撃の講談師・神田松之丞が語る「“あの番組”で笑いを取りに行かなかった理由」

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