クロちゃんを首まで埋めて…
――クロちゃんはいかがでしょうか。クロちゃんが藤井健太郎作品のメインとしてある理由は。
藤井 そういう意味では、クロちゃんも家の定点カメラで隠し撮りしていたら、やっぱり予想外のことはしてきますよね。長いこと見てきましたけど、ここにきて鼻くそ食べるとは思わないじゃないですか。「うわ、まだそんな隠し玉あるんだ」みたいな。もちろん環境次第ですけど、うまく状況を与えるとすごい撮れ高を出してくる人だなとは思いますね、クロちゃんは。意図せずの部分を含めて。
――私以前クロちゃんを目隠しした状態でインタビューしたことあるんですけど、最初「エッ」って驚くのに、すぐ普通にしゃべりだして。この環境を秒で受け入れている、と。
藤井 (笑)。
――この人やっぱりすごいなと思いました。『大脱出』でクロちゃんを埋めたことでの新たな気づきはありましたか?
藤井 埋めたことでの気づきは別にないですね(笑)。
――ネタバレに引っかかるかもしれないので詳細は書けませんが、いざ脱出できるかもしれないとなった時の壁の中でのクロちゃんの立ち振る舞いに本当にびっくりさせられました。
藤井 面白かったですね。そういう意味ではあれはちょっと想定外でしたね(笑)。
――人間って極限だとああいう行動をとるのかと。
藤井 確かにね。困難の向こうにいいことが待っているとしても、その困難に向き合うくらいなら辛いままでいいというね。誰にも当てはまることですよね。
――実生活でもありそう。
藤井 虫歯みたいな話ですね。治したほうがいいんだけど、治療で痛い思いはしたくない。
――先延ばしにしてしまう。
藤井 今そんなに痛くないし、いいやって。
人間の価値観が揺らぐさまの“面白さ”
――人間ですよね。人間が『大脱出』には詰まっている。『大脱出』でそういうシーンはないですけど、たとえばめちゃめちゃ極寒の場所に札束とマッチが用意されていたら、私は札束を燃やすだろうかとか考えてしまいました。
藤井 その状況においてお金は無価値ですからね。出ないことには価値が発生しないから。
――今ある価値が本当の価値なのかみたいな、『大脱出』にはそういうメッセージがあるのでしょうか。
藤井 別にそこまで大袈裟には考えてないですけど(笑)。
――たぶんお金の価値が変わったり人間がそこに惑わされたりするさまを、藤井さんは面白いと思っているんだろうなと思いました。
藤井 それは、そうかもしれないですね。
――人間の戸惑いや愚かさや可愛らしさをドキュメンタリーではなくバラエティ番組にするというのは、なぜなのでしょうか。
藤井 なんでなんですかね。現状はやっぱり笑いが好きだし、面白い、笑えるやつがいいなと思ってやってますけど。でも、難しいところですよね。『大脱出』みたいなシチュエーションって、これがカット割りの映画だったら、別に笑いじゃなくてもこんなものあるかもしれないじゃないですか。でも、笑いが軸になっているというのは、何なんですかね。

