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芥川賞受賞・高橋弘希インタビュー「小説と将棋は似ているかもしれない」

鮮やかな描写を支える「見える」力

2018/07/23

genre : エンタメ, 読書

note

「うれしいっちゃ、うれしいです。

 でも、賞が欲しくて小説を書いている人なんていないだろうし、結果的に受賞できたのはよかったかなという」

 気負わず飄々と、マイペース。7月18日に第159回芥川賞を受賞した高橋弘希さんのスタイルは、どんなときも一貫している。

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とことん正直だった受賞会見

高橋弘希さん

 受賞決定直後に開かれた記者会見でも、涙を見せたり声をうわずらせることなど一切なし。受賞の感想を聞かれると、冒頭のように応答した。

 結果を待つあいだの様子を問われれば、

「とくに期待せず、ふつうに待っていました。受賞したら会見に出ないといけない、20時までに会場に来るよう言われたので急いで移動して、今ここに引っ張り出されている感じです」

 受賞作『送り火』は青森が舞台。高橋さん本人が小さいころに暮らしていた土地でもあることから、その影響について記者から質問が飛んでも、

「青森で過ごしたことが作品に与えた影響は、じつはあまりないんじゃないかと思っているんです」

 とのこと。過剰な演出はしない。とことん正直、なのである。

 受賞翌日に改めてお話を伺えた。ここでもやはり、受賞によってペースを乱された感はまったくなし。

「昨晩ですか? ちゃんと寝ました。たくさんの人が連絡を入れてくださったみたいですけど、いったんスマホをマナーモードにして寝てました」

 受賞後にわかに周囲が慌ただしくなっても、本人がかくも変わらずいられるのはなぜか。

「いえ、それほど平常心だったわけでもなくて。自分としては記者会見のときは、テンションが上がっていました。なにしろ人がたくさんいたので。

 会見のあとはお祝いの席を設けていただいていて、そこで選考委員の方々と言葉を交わせました。以前からよく作品を読んでいた方々に声をかけてもらえるのはうれしいです」

 選考委員と顔を合わせたのは都内のバーだったが、高橋さんはお酒をほとんど飲まない。シャンパンで乾杯だけして、ずっとジュースで通したのだそう。