2020年10月、八王子市にある国立東京工業高等専門学校(東京高専)の学生会長だった当時18歳の野村陽向(ひなた)さんが自殺した。コロナ禍の中で文化祭を開くかどうかについて学校側と意見が割れて教員から「暴走」「独断」など強い言葉で非難され、学生会費のポイント利用などについて苛烈な“監査”の対象になっていた。陽向さんの遺書でも「私の中で負担となっているのは学生会」と書かれていた。

 10月5日に第三者調査委員会が公表した報告書には、陽向さんが追い詰められる顛末が記されていた……。

野村陽向さん(享年18)の仏壇。そばには、お世話になったバイト先のネームプレートも ©渋井哲也

 陽向さんは2018年の4月に東京高専に入学、1年生の時から学生委員会や生協、文化祭実行委員の活動に熱心に取り組み、2年生にして異例の学生会長に就任した。そして3年生になっても学生会長として活躍していた。

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 陽向さんが3年生になった20年の4月はコロナ禍で学校が休校になり、6月に予定されていた文化祭の開催が問題になった。陽向さんが学生会長として、(1)延期、(2)代替イベントの開催、(3)中止という3つの案を挙げ、学生会は役員の総意で文化祭の中止方針を打ち出した。一方で、文化祭の顧問であり、学生主事補である教員Aから、学校の方針としては延期案を採用すると伝えられた。

教員がLINEで送った「役員が暴走」「執行部が独断」という強い言葉たち

 こうした中で、新型コロナウイルス禍の緊急事態宣言が解除される。対面授業が一部再開されるが、学生会執行委員会はオンラインで会議をする中で、文化祭の中止を決定した。

 そのことを文化祭顧問の教員AにLINEで報告した。その際、6月13日に教員Aから「役員が暴走」「執行部が独断」「執行役員だけを見ていればいい役職だとは思わない」と強い言葉で非難するメッセージを受け取ったという。

陽向さんの父・正行さん 筆者撮影

 それらのメッセージについて後に教員AはLINE上で陽向さんに謝罪したものの、陽向さんは学生会の役員が総意で決めたことについて強い言葉で個人的な責任を追及されたことに疑問を感じ、副校長に「申し入れ書」(6月14日付、15日付)を提出した。

 それを受けて副校長が同席のもと、15日に教員Aは陽向さんにあらためて書面と口頭で謝罪している。

「教員Aは文書で謝罪していて、学生も納得していました。そのため、当時はそこで(対応が)止まっていました。学校内で適切に解決に向けて処理をしていたので、校長までは上がっていなかった」(樋口聰校長)

 しかし、陽向さんと教員Aの“対立”はこれでは終わらなかった。