2020年10月5日、東京工業高等専門学校(東京高専)の学生会長・野村陽向(ひなた)さんが自殺した。当時18歳だった。

 野村さんの自殺には、いくつかの背景があったと考えられている。まず、コロナ禍での文化祭開催の是非をめぐっての議論が行われ、開催中止の意向を示した学生会に対して開催を主張する講師がハラスメントとも取れる発言をしたこと。また、学生会長が校長に申し立てを行ったところ、数年間にもさかのぼって学生会の不明朗な会計が指摘され、試験直前に学生会長が会計監査を受けたことが挙げられる。

野村陽向さん(享年18)の仏壇。そばには、お世話になったバイト先のネームプレートも ©渋井哲也

 遺族は「この時期の監査は、ハラスメント申し立ての腹いせだったのではないか、会計監査で追い込み、学生会長から外す意図があったのでしょう」と指摘している。

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起きてこない息子。扉を押しても開かない

〈色々楽しいこともあった、けど、ここ数日で本当に生きることが嫌になった〉

 10月5日朝。野村さんが自室で首を吊って亡くなっていた。机の上にA4用紙6枚分がプリントアウトされた遺書が置かれていた。冒頭の言葉は遺書の一部だ。

 発見したのは、在宅勤務だった父親(53)。野村さんがなかなか部屋から出てこなかったため、気になって2階の部屋に行くと、返事がない。

「扉を押しても開かないんです。最初は、『寝ていて、足にひっかかっているのかな?』と思ったので、一度、1階に降りました。ただ、何の音もしない。もう一度、部屋に行って何回か声をかけたのですが、応答がないので強引に開けました。

 部屋の中では、陽向が立っている状態でした。『何をしているのだろうか』と思ったら、首にタオルがかかっているのが分かりました。すぐに降ろして、妻に知らせて、救急車を呼んでもらいました。私は、心臓マッサージをしていました」(父親・以下同)

「夜中に物音がしていたのを覚えています」

 救急車は到着したが、病院に搬送されることなく、死亡確認がされた。いったい、何があったのか。野村さんの行動や精神的な変化を感じることはあったのか。