――映画『市子』で脚光を浴びた戸田彬弘監督の最新作は四肢麻痺の父親を介護する10代女性が題材の映画『爽子の衝動』。主人公には期待の新人、古澤メイが抜擢された。『市子』の主人公・市子も無戸籍でヤングケアラーの女性。主演の杉咲花は日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞し、作品はNetflixのランキング1位を獲得するなど多くの視聴者に支持された。両作で脚本も務めた戸田監督が“生きづらさを感じている”主人公を描き続ける理由とは?
古澤 もともと『市子』は戸田監督が2015年に舞台化した作品だったんです。登場人物の立場や思いの角度が多面的で、その真ん中に市子が存在する――そういう作品を私は初めて観たので、衝撃を受けました。その時、戸田監督の作品に出演したいという思いが強く芽生えたんです。
戸田 その舞台『川辺市子のために』の脚本は、僕の幼少期のことを思い出して書きました。小学生のときに、急に名前が変わった同級生がいたんですね。理由ははっきりわからないですが、無戸籍の問題に関係があったのかもしれない。2015年当時の行政発表によると、無戸籍の子は800人とされていますが、行政にたどりつけない人を支援している人々の肌感覚からすると、実は1万人ほど存在している。案外、身近にいる可能性がある話なんです。
古澤 『市子』の次作はヤングケアラーが題材になると聞いてはいましたが、『爽子の衝動』の脚本を初めて読んだ時はもの凄く苦しくなりましたし、どうしようもない気持ちに襲われました。45分の中編ながら、作品の力を強く感じました。
戸田 ヤングケアラーとそこに紐づく生活保護というテーマは自分の中で引っかかっていたので、ずっと勉強していたんです。モデルはいませんが、当事者がいるお話なので、そこを裏切らないためにリアリティが必要でした。逃げてはいけないし、飾ってはいけない。音楽は使わない、カメラは手持ち、できる限りカットを割らないなどは最初から決めていたことです。
古澤 私も撮影に入る前の準備段階で、医療監修の方に専門的なことを教えて頂く機会があり、知識を得ることができました。
戸田 医療監修の方には四肢麻痺で目が見えない父親役を演じる間瀬英正さんのお芝居も事前に見てもらいました。リアルでは、口のどの辺が麻痺するとどの辺が上がるのか下がるのか、どういう風に声が出るのか。爽子から生活保護の相談を受けるケースワーカーに関しては支援をされている議員さんやNPO法人の方、実際に生活保護の申請をされた方にお話をうかがいましたね。実際の公務員の方だと、なかなか“闇の部分”は話してもらえないと思うので。
古澤 物語が進むにつれて爽子がやっぱり救いのない道筋をたどってしまう状況に、私自身はもの凄く“食らって”しまいました……。
戸田 例えば、爽子のような状況の人間に対してケースワーカーはどういう対応をするのか。どういう「水際作戦」(生活保護を申請させないよう誘導・拒否する行為)が行われるのか。詐称して受け取った生活保護を全てパチンコに使う人がいるとされる中で、支給されるべき人のところに届いていない現実もあるんです。




