「子どものころから勉強もサークル活動も忙しい、大人になったら仕事も忙しい、自分の時間も友達との時間も欲しい――本当に忙しいので「残りの時間で眠りましょう」というのが典型的な働く世代の日本人の考え方だと思います。頭の片隅では睡眠不足だと良くないとわかっているのにやめられない、私はこれを覚醒に対する依存の状態だと言っています」
「残業キャンセル界隈」は若者の問題ではない
ワーク・ライフバランスを取ろうと定刻で帰宅しようとする社員への攻撃もある。「残業キャンセル界隈」という言葉が、仕事があるのに放棄して帰る若者を批判する文脈で使われているが、大西さんは仕事設計とマネジメント責任の問題だと断言する。
「定時で帰る若手を一律に“責任放棄”と断じるのではなく、現場の構造を見直すことが組織の生産性と人材定着を高めます。残業は『例外の手段』であり、『前提の仕組み』ではありません」
大西さんが提唱するのは、①仕事の見える化、②属人化の排除、③働き方を振り返る機会を作る、④評価は“時間”ではなく成果と付加価値で行う、という4点だ。
成功事例が示す希望
働き方改革を成功させた企業も現れている。グループウェア大手のサイボウズは、かつて離職率28%という深刻な状況に陥っていたが、「100人100通りの働き方」を掲げた改革により、現在は離職率4%まで改善した。
※リコー 働き方改革ラボ「離職率を7分の1に低減、サイボウズが先進的な働き方改革を実現できた理由」
同社が2018年に導入した「働き方宣言制度」では、社員一人ひとりが働く時間と場所を自由に宣言できる。育児休暇は最長6年、副業も自由、在宅勤務の設備費用として月5000円を支給するなど、徹底的に個人の事情に合わせた制度設計を行っている。重要なのは、制度だけでなく会社の「風土」も変えたことだ。
※サイボウズ「社内制度」
若者が残る国へ
大西さんの娘がカナダに留学した際、現地の人が日本について知っている言葉は「Karoshi(過労死)」と「Chikan(痴漢)」だったという。そうした海外の人々にとって、今回の高市新総裁の「働いて働いて働いて……」発言は、日本はさらにカロウシを量産しようという狂った国だというように映ったのではないか。