※独立行政法人 労働政策研究・研修機構「『精神障害』の労災支給決定件数が6年連続の増加――厚生労働省の2024年度『過労死等の労災補償状況』

1億総睡眠不足がパワハラを生む

さらに、大西さんは慢性的な睡眠不足を指摘する。

「睡眠不足になると、怒りの発生源である脳の扁桃体が活性化し、それをコントロールする前頭前野の機能が低下します。怒りやすく、理性が利かずに感情のままに怒鳴り散らす状態になるのです。さらに受け止める側のレジリエンスも低下します」

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睡眠不足の上司ほど部下に侮辱的な言葉を使うということがウォールストリートジャーナルでも報じられている。

元・陸上自衛隊衛生学校心理教官の下園壮太氏によれば、この回復がないままに次のショックがあると、同じショックでも2倍以上傷つき、2倍以上の回復期間が必要になるという。この状態では、ちょっとした言葉でもより深く傷つき、過労自死に追い込まれてしまうのだ。

下園壮太公式HP

「日本の睡眠時間はOECD33カ国中、最下位です。1億総活躍どころか、1億総睡眠不足状態によって、攻撃的な言動と、それを受け止めきれない精神状態の双方を生み出す最悪な事態となっています。これが、“働きたいなら働かせておけばいい”という発想の落とし穴です。睡眠不足は、加害する側にも被害を受ける側にもなりやすい――まるで交通事故のような構造です」(大西さん)

確かに日本人の労働時間は全体としては減少傾向にあるが、睡眠時間がOECD最下位なのは、労働以外の社会的・構造的要因が根強く存在しているためだと考えられる。

サービス残業や持ち帰り仕事が労働時間にカウントされない上、都市部の通勤時間は長いことも要因として挙げられるだろう。また、日本社会には睡眠不足や忙しさを美徳とする価値観が今なお根付いていることも背景にある。

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長・柳沢正史教授は、今年3月、厚生労働省の健康・生活衛生局健康課からのインタビューに答えている。