何の非もない4人の男女が次々に惨殺された。犯人は、地元でよく知られた名家の長男だった――。

 2023年5月、長野県中野市で住民の女性2人と警察官2人が殺害された事件。殺人や銃刀法違反の罪に問われている青木政憲被告(34)の裁判員裁判の判決公判が10月14日午後に開かれ、長野地裁は求刑通り「死刑」を言い渡した。事件の詳細、青木被告の人物像に迫った「週刊文春」の記事を一部編集し、公開する。(全2回の1回目/#2へ続く

(初出:「週刊文春」2023年6月8日号。年齢、肩書は当時のまま)

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中学時代の青木被告

◆ ◆ ◆

「殺したいから殺した」

 2023年5月25日午後4時過ぎ、現場は田畑が広がる長野県中野市の江部地区。日課の散歩中だった竹内靖子さん(70)と村上幸枝さん(66)が、いつも通り青木宅前を通過する。

 最初に襲われたのは、竹内さんだった。刺し傷と切り傷は十数カ所に及んだ。

「誰か助けて!」

 畑で妻と葱を植えていた近隣男性の元へ、村上さんが血相を変えて駆け寄ってくる。男性の目の前で、追いついた青木が村上さんの背中にナイフを2度、突き立てた。

青木政憲容疑者

「なんでこんな酷いことをするんだ!」

 男性が質すと、青木は無表情でボソリと呟いた。

「殺したいから殺した」

 倒れた村上さんの体から流れ出る大量の血が、畑の土を黒く染めていく。

「当然の仕事をしたかのように、悠々と引き返していった。サングラスと黒いマスクをしていたが、特徴的な長いもみ上げを見て、あれは政憲じゃないかと思ったんです」(近隣男性)

駆け付けた警官に躊躇いなく発砲

 救急車を呼んだ別の男性とともに村上さんの蘇生にあたっていると、竹内さんを自宅の敷地内に運び込んだ青木が、台車を押して再び姿を現す。村上さんも移動させるつもりだったのだろうか。そこに中野警察署の池内卓夫巡査部長(61)と玉井良樹警部補(46)がパトカーで駆け付けた。

 台車に乗せていた猟銃を手に取った青木は、減速したパトカーを追うと、運転席側の窓ガラスに銃口を当てながら並走。そしてパトカーがキノコ小屋の前に停車した瞬間、躊躇いなくトリガーを2度、引いた。

「その時はマスクをしていなくて、笑っているように見えた」(通報者の男性)

 池内氏は即死状態。助手席の玉井氏にはまだ息があり、何とか車から這い出ようとしたが回り込んだ青木が今度はナイフを突き立てた。その後、青木は150メートルほど先にある木造2階建ての自宅に引き返し、立て籠もったのである。