「計画は、どういうことで入山したんだ?」行方不明になった3人の登山計画とは?
小屋のストーブを囲んで、すぐさま対策会議が開かれた。まず、山小屋の主人がきり出した。
「計画は、どういうことで入山したんだ?」
宮下が3人の計画書を主人に手渡し、緊張した声で説明をはじめた。その概要をまとめるとつぎのようになっていた。
(1)12月28日、大糸線有明(ありあけ)駅から宮城(みやしろ)までタクシーで入り、ここから歩きはじめ、中房(なかぶさ)温泉を経て合戦尾根(かっせんおね)にとりつき、尾根の中間地点にある合戦小屋前で幕営。
(2)12月29日、合戦小屋から燕山荘(えんざんそう)に登り、縦走路を槍方向にたどって大天井(おてんしょう)岳を直登し、真下にある大天荘(だいてんそう)テント場で幕営。
(3)12月30日、大天荘から大天井岳に登り返し、喜作(きさく)新道をたどってヒュッテ西岳前に幕営。
(4)12月31日、西岳から東鎌(ひがしかま)尾根にとりつき槍ヶ岳に登り、槍の冬期小屋で幕営。
(5)1月1日、槍から大喰(おおばみ)岳を通り、南岳から、横尾(よこお)尾根を下り、横尾で幕営。
(6)1月2日、横尾から上高地を経て沢渡へ下山。
エスケープルート(天候悪化や体調を崩してメインルートの登行が不可能になったときのために、予備として設定しておく逃げ道)は、常念。予備日は1月3日と4日。
「冬山経験は何年あるんだ?」と山小屋の主人に聞かれ…
ここまで説明を終えると、小屋番のアルバイトが、しゃきしゃきに凍った野沢菜の漬物を皿に盛って番茶といっしょにそっと差し出した。4人は手をつけずにかしこまって座っていた。
「その3人は、暖をとる知恵はあるかね」と、主人はしばしの沈黙を破ってたずねた。「それは心得ています。メタ(固型燃料)のないとき、ティッシュペーパーに油をしみこませて燃やし、コンロをプレヒートさせたこともありますし、木切れを集めて燃やす術なども知ってます」
と、片山が答えた。主人は続けてたずねた。


