日本経済の中心地、東京・丸の内から“マル秘”財界情報をくわしくお伝えする『文藝春秋』の名物コラム「丸の内コンフィデンシャル」。最新号から、ダイジェストで紹介します。

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富士通を襲う巨額補償

 富士通(時田隆仁社長)を巡る「英国史上最大の冤罪事件」に出口が見えない。ここ数年、英国全土を揺るがしてきたのが、1000人近い郵便局長らが濡れ衣を着せられた会計システム「ホライゾン」を巡る問題だ。このシステムを納入した富士通は、10月末までの包括的な救済措置の提示を調査委員会から求められている。

郵便局長らの冤罪事件に抗議の声をあげる人たち ©PA Images/時事通信フォト

 富士通は1990年に英国のIT企業ICLに出資し、後に完全子会社化した。当時は米IBMとの特許権紛争の直後で、官公庁システムに強いICLの買収は海外展開の拠点を欧州に求めた格好だった。そうした中、ICLは96年にホライゾンの開発を受注、郵便局サービスを展開する国有企業ポスト・オフィス社により99年から順次、運用が始まった。

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 ところが、直後から現金とシステム上の残高の不一致といった不祥事が多発。結果、2015年までに郵便局長らが窃盗などで訴追される一大事件となった。だが、無実を訴える者も多く、全国運動に発展。集団訴訟の結果、19年に裁判所が原因はシステムの欠陥にあったと結論づけたことで、真相究明に向け調査委員会が創設された。当時の政府要人も証人として調査を受けている。

 富士通については、調査の過程で直接的な関与も一部明らかとなった。その一例が1998〜99年の動きだ。ホライゾンの開発は当初から難航。98年当時、進捗は2年遅れ、コストも当初予算を大幅にオーバーしそうな勢いだった。そこでブレア政権は水面下で方針転換を模索する。

 それに対し富士通は圧力をかけた。調査で明らかになった98年12月4日付の駐日大使館発の本国宛て公電によれば、鳴戸道郎副会長(2009年死去)ら最高幹部3人はデビッド・ライト大使と面談。政府側の姿勢を非難し、今後は政府による何らかの保証が必要と求めた。

 当時、ブレア政権が何より恐れていたのは、富士通の撤退による開発の頓挫が政治的失点につながる事態。この間、生き残りに必死なICLは政府に対し富士通がICLを売却するリスクを密告していた。

この続きでは、事件の背景をさらに詳しく分析しています〉

※本記事の全文(約5000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年11月号に掲載されています(丸の内コンフィデンシャル)。全文では、下記の内容をお読みいただけます。

 

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