問題は為替変動のスピード

 それでは、ドル円はいくらぐらいがいいのか。

 実は為替には適正な価格というものがない。各国の物価を基にした購買力平価という参考価格みたいなのもあるけれど、機能していないという専門家が多い。

 ちなみに8月2日の日本経済新聞によると、主要企業80社の想定為替レートは平均1ドル=147円。企業はそのくらいが適正と考えている。また国際決済銀行(BIS)によると、2022年4月の世界の外国為替市場の1日あたりの取引額は7兆5000億ドル(約1125兆円)。これでは政府・日銀が数兆円規模の介入をしたとしても一時的なものにしかならないといえよう。

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 だから、なんとも言えないのだけど、問題は為替変動のスピード。急速に変化して、輸入企業の値上げや会社員の賃上げが間に合わないのは困る。

 幸い、現時点ではトータルすると日本経済にはプラスといったスピードの円安となっている。

 為替レートが変動するのには、いくつもの複合的な要因がある。大きなものの一つは日本とアメリカの金利の差。だいたい、2024年11月の日本の長期金利は1%ぐらいで、アメリカは4%ちょっと。すると、銀行預金をするにはアメリカで預けた方が4倍も得になる。そうなると円を売ってドルを買って、アメリカでドル預金をする人がどんどん増えて円安になる。

 新型コロナで打撃を受けた経済を救うために、多くの国で金利はゼロやマイナスになった。マイナス金利とは借金をすればむしろ利息をもらえるという、過去の経済情勢にはなかった状態だ。これによって、困っている企業や市民がおカネを借りやすくした。

日本と欧米諸国の金利対応の違いとは

 一方でその結果、おカネが世界中で余ってしまって景気が過熱し、おカネの価値が減ってしまった。そこへロシアのウクライナ侵攻などがあって、石油や食料品の価格が高騰。インフレが世界中で起きてしまった。

 よく、最近の物価が高いとみんなこぼしているけれど、日本のインフレ率はせいぜい2~3%。ところがアメリカやヨーロッパでは8%、9%といったはるかに深刻なインフレとなった。インフレを収めるには金利を上昇させて、景気を沈静化させるのが一番とされている。

写真はイメージ ©beauty_box/イメージマート

 そこで、欧米はどんどん金利を引き上げて、金利を上げなかった日本と差がついて、円安が加速した。

 なぜ日本が金利を上げないかというと、2%ぐらいのマイルドなインフレを定着させたいから。

 金利を急激にどんどん上げると、住宅ローンなどを借りている人が困ってしまう。銀行から資金を借りる企業もそう。デフレで低成長の続いた日本は、アベノミクスでゼロ金利を続けたため、インフレ率が欧米より低くてマイルドで金利を上げられなかった。