病院のベッドで意味もなく涙が出た

――手術後は痛みや吐き気などにも悩まされたそうですね。

久多良木 激しかったですね。特に切断後の痛みがひどくて。麻酔が徐々に切れてくると、切断したはずの部分が痛む感覚に襲われました。

 

 痛み止めが全然効かなくて、歯を食いしばって耐えていたのですが、そのせいで右下の歯が3本欠けてしまいました。痛みに耐えるためグッと強く力を入れたことで脳の血管が切れてしまい、脳内出血も2回起こしましたね。幸い後遺症は残りませんでしたが、通常なら後遺症が残ってもおかしくないほどの出血だったと聞いています。

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 合併症の影響もあって、発症してから1年くらい体温が38度台だったし、血液検査でもずっと異常値が続いていました。どこが悪いというより、ほとんど悪い状態でしたね。

 

――今、とても冷静にお話をされていますが、すぐに現実を受け止められたのでしょうか?

久多良木 そこは、もともと臨床検査技師として働いていたことが大きかったかもしれないですね。壊死によってこの先どうなるかをある程度想像できましたし、切断はしょうがないなと思うことができました。「将来、妻や子どもたちがかかる病気を自分が全部引き受けたんだ」と自分に言い聞かせていましたね。

 ただ今思えば、当時ショックで取り乱したりはなかったんですけど、やはり心の底では不安定だったんだと思います。ずっと寝たきりで、何もしなくても涙が出るし。「悲しい」「将来が不安」ということではなく、意味もなく涙が出てくることがあって。やっぱり精神的に堪えていたんだと思います。

撮影=平松市聖/文藝春秋

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