「足を切って可愛くなったね」

――久多良木さんの前向きさが伝わってきます。ご家族とは、今も病気についてお話しすることはあるのでしょうか。

久多良木 しょっちゅう話しますよ。娘たちは今、長女が高校2年生、次女が中学1年生なんですが、「足を切って可愛くなったね」なんて言われます。

スポーツ大会での久多良木さん(本人提供)

 僕、義足をつけていると180センチくらいなんですけど、義足を外すと144センチしかなくて、娘たちより小さいんです。膝下で切断した断面がブヨブヨしていて、触り心地もトゥルトゥルだから、娘たちがスライムのおもちゃみたいにペチペチって遊んでますね。

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 僕が家にいることで、いい勉強になってるのかなって思うこともあります。シャワーの位置が高そうだと下の段にかけ直してくれたり、段差に気づいてスロープの位置を教えてくれたり。僕を通して障がい者と関わることに慣れているからか、ほかの障がい者の方たちともフラットに話をしています。

――お話を聞いていると、ご家族との関係がとても良好な感じがします。病気になる前から仲良しだったのでしょうか?

久多良木 仲は良かったですよ。ただ、僕が会社経営をしていて多忙だったので、家にいる時間がほとんどなかったんです。娘の運動会や卒業式など学校行事には絶対行くようにしていたけど、子どもと遊びに行ったことも数えるくらいしかない仕事人間でした。

 平日は県外の仕事もあったし、夜は会食も多くて、妻に任せっきりだったと思います。妻に対しては感謝しかないですね。僕が入院中は家を守ってくれたし、家のローンも妻が建築士として働いていてそこから出してくれていますし。僕が出せるのは生活費くらいです。

 

――退院後の収入はどこから出ているのでしょうか?

久多良木 去年までは障害者雇用で、病院のクラーク(医師や看護師をサポートする事務職)をしていたんですが、プロアスリートに転向してからは辞めました。

 今は、5社ほどスポンサーさんがついたので、そのお金で全国の陸上大会を回っています。あとは講演会や、ファッションショーのモデル、企業のCMとかですね。

妻から「貯金しておいてね」と言われるワケ

――幅広い活動ですね。奥様からは何か言われていますか?

久多良木 「好きなことをしていいけど、ある程度は貯金しておいてね」と言われています。今は陸上をやれるくらい体力があるけど、このさき歳を取ったら誰が面倒見るんだって話ですし、施設に入ったとしてもお金がかかりますから。

 そもそも、障がい者の遠征はかなりお金がかかるんです。お風呂は装具を取って膝立ちで入るので、シャワーヘッドが高いと届かない。だから、そういう条件をクリアできるホテルを探す必要があります。

 バス移動はステップで時間がかかるし、指がないからチケット提示にも手間がかかって結局タクシーを使うことが多い。距離にもよりますが一回の遠征費用が約20万円かかることもあります。国内大会が2か月に1回あるとなるとスポンサーがいても足が出ちゃうんです。

 さらにパラスポーツの普及活動やイベント運営などもしているので、そっちの方でもお金を使います。だから、妻が心配するのも無理もない話ですよね(苦笑)。